朝食は毎日食べているのかと聞くと「食べないと『学校』へ行けないから」と言う。「お母さん、デイサービスって言わないとわかりにくいね」とヤス子さんが補足した。

北中城村では「ぬちぐすい(命の薬)長寿大学」という名称で介護予防事業を展開していた。「学生証」を見せれば村内の飲食店で割引してもらえるなどの特典を付け、介護予防に参加してもらう狙いだった。

お年寄りが大学生になった雰囲気

「『長寿大学』は非常に人気があって、お年寄りが大学生になった雰囲気になる。『学校』に行けばあの人がいる、この人もいるということで要するに毎日変化があるということがとてもよかったと思いますね」(新垣村長)

だが、「あまりに人気が出すぎて、みなさん卒業してくれなくて……。今はサークルという形で、各公民館で自主的に活動してもらうという形に変えました」(村担当者)。その名残からか、ノブさんは今でもデイサービスを「学校」と呼ぶ。

ノブさんは1日おきに「学校」に通い、仲間とボールを投げたり世間話をしたりするのだそうだ。友達がたくさんいるので退屈しないのだという。昼食には、ご飯と4種類ほどのおかず。豚肉が出ることも多く、軟らかく煮たりミンチ状にたたいたりして高齢者でも食べやすくした状態で出てくるという。

通所は午前9時半~午後4時半。「学校」のことを語るノブさんの目は生き生きとしており「『学校』はそんなに楽しみですか」と尋ねると、「楽しみ!」と声が大きくなった。

「学校」がない日は夕飯前に1~2時間、散歩をするのが習慣だ。ヤス子さんに車いすを押してもらって外に出て、同じように散歩している友達と出会うと、そこでもまた世間話が始まる。「沖縄では、昔から『いちゃりばちょーでー』という言葉があります。『会えばきょうだい』という意味で、沖縄の人たちは街中で出会う人はみんな友達という感覚なんです」とヤス子さん。散歩以外には相撲を見ることも趣味で、白鵬がお気に入りだそうだ。「いい横綱。ええんや、あれ」とノブさんは笑う。

北中城村では午後9時に公民館から就寝のアナウンスが流れるため、ノブさんもその時間には眠りについている。これがノブさんの一日だ。

「100歳まで長生きできた秘訣は何だと思いますか?」と尋ねると、ノブさんは「夢中で働いていたからだと思う。13歳のときから名古屋の紡績工場で働いていた」と答えた。

ヤス子さんはこう語る。「戦前の義務教育は小学校までの6年制。経済的に余裕がある家の子は中学校に進学しますが、お母さんは母子家庭で、6人もきょうだいがいました。だから家計を助けるため、13歳のときからずっと働き詰めだったようですよ」