ゴルフ中でも「支配人を呼べ」と怒る

私が一倉先生を評論するのは僭越だが、一倉先生の魅力の根源は、この愚直なまでの真面目さだったと今になって改めて思う。実際に仕事以外で食事をしているときも、ゴルフのときも、お客様目線で不備に気づくと、我慢ならないのである。

すぐに支配人、社長を呼べと、怒りだして説教が始まってしまう。指導料がもらえる訳でもないのにと、こっちは思ってしまうが、先生は大真面目で指導してしまうのである。もう職業病である。社長も支配人も一倉先生を知らないから、「なんだ、このクレーマーおじさん」くらいの気持ちだから、お供のこっちはおろおろするのである。先生にはサービスを良くしなければ「潰れるぞ!」という純粋な思いしかないから、本気なのである。そこには業に徹する凄味があった。

一倉先生はそれを仕事だからやっているわけではなく、純粋にお客様になり代わって声を出しているのである。だから、社長がその真意をくみ取って、社員を教育し、お店を直し、営業方法を工夫し売上、業績が回復していってほしいと思っているだけなのである。ちょっとした気遣い、心配り、お客様の立場に立ったサービスに非常に敏感であり、前回の指導から良くなっていると我がことのように喜び、年計グラフで数字を見て、方向性が間違っていないことを確認するのである。

先生が鬼にならないと、社長はそうそう変われない。先生が仏になっているのは、業績がいいからではなくて、「お客様が満足しておられるから」であって、結果として数字が伸びているのである。

「仏」が「鬼」に変わる瞬間

たとえばの話だが、資金繰り表の作り方を知らなくても、先生は怒鳴ったりすることはない。「知らない、わからないこと」は仕方がない。だから、社長、経理部長、先生と一緒になって、「作り方を指導しながら、数字を確認し、対策を考えていく」のが常であった。

その会社の一大事のときに「社長が自ら動かない」「経理や他の役員に任せる」。さらに、いろいろ策を考えているときに、「あれはできない」「これは無理だ」と実行する前からできない理由を口にすると、「仏」が一変し「鬼」に変わるのである。それも瞬間に。

そのとき一番大切なのは、社長の姿勢である。M社長も一倉門下の優良企業オーナーであるが、会社での指導中、販売戦略の相談中に先生と社長の間でやり取りがあった。先生のアドバイスは、「今お取引をしているお客様に別の商品を仕入れても、作ってもいいから売りなさい」「販売先をキチンと管理していて、たいしたものだ」というお褒めの言葉もあったくらいで上機嫌だった。

が、先生が一言「たとえば、◯◯◯なんかどう?」というのを聞いたM社長が発した語句が火をつけてしまった。「先生、○○○は粗利が低くて儲からないんですよ~」と、冗談っぽく言ったところ、「バカヤロー」「たとえばで言っただけで、何もやりもしないでぐちゃぐちゃ言うな!」と雷が落ちた。そして、来社から1時間ぐらいしか経っていなかったが、「俺は帰る」と言い残して本当に帰ってしまったのである。