昭和の雰囲気が残るスポットをガイド

【市来】たとえば昭和の雰囲気が残るスポットをガイドして回ったり、海でシーカヤック体験をしてもらったり。先ほどの農業体験もそうですね。

【田原】どうやって参加者を集めた?

【市来】狙いは、地元の人を熱海のファンにすること。なので、移住者や別荘を持っている人が多いリゾートマンションに冊子を配布しました。

【田原】でも、町の魅力といっても、ほとんどの店はシャッターが下りてるわけでしょ。

【市来】意外にお店は残っていたんです。当時、熱海駅から海にかけてのエリアで400店舗近くあった。たとえば喫茶店に限っても40店舗くらいあったので、喫茶店巡りもやりました。移住者は「町が寂れている」と思って来ないのですが、そういう人たちを案内すると気に入ってくれて、リピーターになってくれました。

【田原】「オンたま」は、いまも続けているんですか?

【市来】いえ、11年で一区切りをつけました。やっていくうちに熱海のことをネガティブに言う人が減って、新しく活動する人が増えてきたので一定の成果はあったかなと。一方で、熱海として解決すべき課題は山ほどあるので、そろそろ次に進むタイミングだと判断しました。

【田原】次のステップ?

【市来】不動産を活用した中心市街地の再生です。地域再生プロデューサーの清水義次さんが熱海にいらっしゃったときに、江戸時代に「家守」という職能があったことを教えてもらいました。江戸時代は官僚の数が少なかったのですが、民間の大きな地主は「家守」にエリアの管理を任せて発展していたのだとか。いまは大地主がいるわけではありませんが、皆がばらばらで持っているものを民間でうまく集約させてマネジメントしていけば、熱海も発展していけるかもしれない。そう考えて、現代版の家守として株式会社machimoriを立ち上げました。家だけじゃなく、道や公園など町全体を見るという意味でmachimoriです。

【田原】具体的には何をするの?

【市来】先ほど田原さんがおっしゃったように、商店街は空き店舗が多いのも事実です。そこで不動産オーナーに代わってテナントを誘致したり、不動産の管理を効率化する事業をやっています。最初は、まず自分たちが事例になろうと考えて熱海銀座にカフェをつくりました。

【田原】カフェ? 経営は順調だったんですか?

【市来】いえ、それが全然。僕は学生時代にファミレスでバイトしたものの、まったく向いてなくて、ほぼクビに近い状態で辞めた人間です。うまくサービスができないからお客さんが入らないし、そうなるとスタッフともうまくいかなくなり、余計に店の雰囲気が悪くなるという悪循環でした。イベントをやり続けたり、サービスを改善することで少しずつよくなりましたが、黒字になったのは1年だけ。あとは赤字ばかりで、17年に閉店しました。

【田原】じゃ、カフェは失敗ですか?