最近、関心が高まっている病気に「多発性硬化症」がある。世界的に見ると、北欧やイギリス、カナダ、アメリカ北部、オーストラリア南部など、日照の少ない地域に患者が多く、暖かい地域に少ない。日本でも北海道や東北に多く、沖縄に少ない傾向がある。

発病のピークは20~30代で、患者の大半は若い成人。男女比は1対3で女性に多い病気である。

多発性硬化症は脳、脊髄、視神経からなる中枢神経系のあちこちに病巣ができ、場所によってさまざまな症状を引き起こす病気である。

「大脳に病巣がある」と、体の片側だけの感覚が異常になる片側不全麻痺(へんそくふぜんまひ)、言いたいことが話せない失語症、物が覚えられない、物忘れをするといった記憶・学習障害。そのほか、情動障害、半盲、性機能障害などが起きる。

また、「小脳・脳幹に病巣がある」と、物が二重に見える複視のほか、運動障害、めまい・平衡障害、構音障害、嚥下(えんげ)障害など。「脊髄に病巣がある」と、運動障害、感覚異常、排尿障害など。「視神経に病巣がある」と、視野欠損などが起きてくる。

体のさまざまなところにさまざまな障害が起き、症状が安定している「寛解(かんかい)」と「再発」を繰り返し、進行していく。寝たきりとなり、合併症の肺炎などから呼吸停止で亡くなることも、まだある。

このような症状を起こす多発性硬化症のメカニズムは、次のようなものだ。

神経細胞と神経細胞は軸索で結ばれており、軸索を覆っているのがミエリン(髄鞘(ずいしよう))という膜。ミエリンは神経同士を絶縁し、情報混乱を起こさないようにしている。ところが、自分の体を守るはずの免疫系がミエリンを攻撃し、壊してしまうのがこの病気である。

攻撃が強いとミエリンに覆われていた軸索も壊れ、修復できなくなる。つまり、多発性硬化症とはミエリンのタンパク質に対して起こる自己免疫疾患である。

難病ではあるものの、今日では治療は大分進歩した。2000年、多発性硬化症の再発を長期に抑える薬のインターフェロン・ベータ1b「ベタフェロン」(自己注射薬)が認可されたのである。

この治療薬によって、早期に発見して早期にベタフェロンを使うことで付き合っていける病気になってきた。

今日、再発し、症状が急速に悪くなる「急性増悪期」には「ステロイド・パルス療法」を行う。点滴用のステロイド薬を3~5日間、大量投与。これを一クールとして、通常は1~2クール行う。

ステロイド・パルス療法で効果が見られないときには「血漿(けっしょう)交換療法」が行われる。

また、再発予防と障害進行の抑制に対しては、今日の標準治療はベタフェロン。ベタフェロンが使えない患者には、「免疫抑制剤」が使われることがある。

 

食生活のワンポイント

多発性硬化症を予防する食生活や嗜好品はわかっていない。また、患者に対しても食事制限はまったくないのが現状である。

いまの時点では、常にバランスのとれた食事を心がけることが望まれる。

ただ、患者は運動不足になりがちという点から、水分と食物繊維は充分に摂るようにすることが勧められる。

食物繊維を多く含む物としては、ごぼう、大豆、ヒジキ、レンコン、イモ類、納豆、プルーン、コンニャク、玄米など。

嗜好品としては、アルコール、コーヒーなども制限はない。ただ、アルコールを飲むと体温があがり、一時的であっても症状が悪化する人もいる。その点で、注意はすべきである。

コーヒーは寝付きを悪くするので午後6時以降は控えたほうがよい。

タバコは症状を悪化させるという報告があるので、禁煙すべきである。