都内私立中高一貫校で「男子御三家」といえば、開成、麻布、武蔵だ。このうち麻布は教員を「●●先生」とは呼ばず、「●●さん」と呼ぶ。それどころか、名前を呼び捨てにして、「タメ口」で話す生徒も多いという。なぜなのか。中学受験塾代表の矢野耕平氏が解説する――。

※本稿は、矢野耕平『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(文春新書)の一部を再編集したものです。

「先生なんてやめろ。さん付けで呼べ」

開成・武蔵と並ぶ「男子御三家」の麻布の卒業生に取材を重ねると同校特有の「生徒との教員の距離感」が浮かび上がってくる。「特有」と言い表したが、これは「特異」と言い換えてもよいかもしれない。

卒業生の一人は麻布に入学早々、教員とのその独特な距離感に戸惑いすら覚えたという。

「入学してすぐ担任の先生と話をしていたんです。まだ小学生の延長くらいの頃でしたから、『●●先生』って呼んだのです。そしたら、『先生なんてやめろ。「さん」付けで呼べ』って叱られたんです(笑)」

そして、彼はおそるおそる教員を「●●さん」と呼ぶようになるが、その名から「さん」が抜け落ち、タメ口を叩くようになるまでにはさほど時間がかからなかったと笑う。

「職員室へ遊びに行ったときなどは、『おい、●●(呼び捨て)、お前仕事しろよ!』なんて感じで会話していました(笑)。なんだか、親しい友人に『バカヤロー』なんて軽口を叩く感じ。先生たちとは対等。若い先生だから距離が近いというわけではなく、むしろ逆でベテランの先生であればあるほど、何だか友だちみたいな感覚が強くなっていく。あれはどうしてだろう? 不思議だったな」