「おい、●●! なんだよ、言っていること全然分かんねえぞ!」
別の卒業生はこう口にする。
「職員室はしょっちゅう入り浸っていました。というより、校舎の構造上、職員室の前を通らないと行けない、つまり、ぼくらの動線部分にある。職員室でどんな会話をしていたか、ですか? うーん……どうでもいい雑談ばかり……。たとえば、机の汚い先生のところを通ったときは『いい加減に掃除しろよ』とか」
自身もOBである麻布の校長・平秀明先生によると、この生徒と教員の距離感は古くから変わらないらしい。
「職員室には確かに多くの生徒たちがやってきます。教師に議論を吹っ掛けにやってくる子もいれば、ただ単に駄弁りにくる子もいます。あと、授業の質問にくる生徒もいますね。教師も職員室に積極的にくる子に対してとても親切に対応していますね。普段、寡黙なタイプの子が職員室に訪れてくれるなんて嬉しいこともありますよ。まあ、昔から生徒と教員の距離は近いですね。高名な教師をニックネームで呼んだりしてね。たとえば、頭が禿げているおじいちゃんの先生は『ワットさん』とかね……何でも百ワットの明るさだとか(笑)。そう考えると、昔のほうが傑作な渾名が多かったように思うな」
ある卒業生によると、乱暴な口を叩ける教員であればあるほど、生徒たちからの信頼は厚いという。
「麻布の先生とは本当に友だちのような関係。たとえば、●●先生という人がいたのですが、普通に生徒たちから『おい、●●! なんだよ、言っていること全然分かんねえぞ!』とか授業中に野次が飛ぶ。で、そう言われた先生は『これから説明すんだよ。うっせえよ!』なんて返ってくる。そういう先生であればあるほど授業内容は素晴らしいし、生徒たちに心から慕われているんですよね」
「こいつをのさばらせていいのか?」クラスが一致団結
ところが、新任の教員がこの距離感を解さないでふるまうと、生徒たちから酷い仕打ちを受けることがあったという。
一人の卒業生はある教員について懐かしそうに思い出す。
「20代の新任の数学教師に対する扱いなんて酷かったな。この人、こともあろうに授業中に『うるさい、静かにしろ!』と言い放ったんですよ。『これはちょっと麻布ってものをこいつに教え込まなければいけないんじゃないか? こいつをのさばらせていいのか?』ってクラスが一致団結しました(笑)。その先生を廊下に連れ出して、そこで論戦を吹っ掛ける。『なんで授業中に静かにしなければいけないんですか?』とか。高二のときだったな。●●という先生なんですけど、当時ツイッターで『●●BOT』が出回っていましたね(笑)。でも、ぼくらが卒業するころは、麻布にすっかり染まっていて、何だか丸くなっていたな(笑)」