窃盗を繰り返した麻布生は退学にされず、京大に合格した
この麻布生のスタンスは中高時代の教員との関係の中で培われたのではないかとわたしは睨んでいる。
ある卒業生によると、麻布の生徒たちは教員たちから「守られている」という感覚を持つという。
「麻布の先生たちって、基本的に生徒放任なのですが、失敗したときのアフターケアがしっかりしている。『俺たちが全部見ていてやるから、お前ら好きにやれよ』というスタンスです。普通の学校なら何か問題を起こしたら罰則が与えられるじゃないですか。ところが、麻布はそうではない。失敗したあとに、先生たちがはじめて親身に対応してくれるんです」
麻布の教員は生徒たちを温かく、ときには辛抱強くその成長を見守る雰囲気があるらしい。一人の卒業生は友人でもある「問題児」を例に挙げて、そのことを説明してくれた。
「先生たちに怒られることは多いですよ。でも、生徒を即退学になんかしない学校です。なんやかんやでぼくたちのことを抱きしめてくれるんだな、支えてくれているんだな、というのは当時から感じていましたね。たとえば、京大に進学した友だちは窃盗を繰り返しめちゃくちゃ長い謹慎を喰らっていました。普通の学校ならすぐ退学させられるでしょう。でも、麻布の先生は忍耐強く、そいつの更生を見守っている。そういえば、そいつはいまだに我が物顔で麻布に遊びに行っていますよ」
現校長「悪いことをしたからと学校を追い出すのは、教育の放棄」
別の卒業生も同じようなことを口にする。
「ぼくの代の麻布では、途中でドロップアウトしたヤツはいないです。どんなに悪いことをしたとしても、学校側はソイツが更生するまで待つという姿勢でしたから。それに、麻布の先生って成績ヤバそうなヤツには補習したり再試験をしたり、結構細やかにやっていますね」
この点を平先生に尋ねると、笑顔でこう返してくれた。
「いったん預かった子はね、ウチに期待をして入ってきたわけだから、一人前の青年にして社会に送り出すのが使命だと思っています。たとえ、在学中に悪いことをしたからといって学校を追い出してしまうのは、教育を放棄することと同義ですからね。生徒がこちらの指導に従う限りは最後まで面倒をみようと考えています。卒業生たちがそういう点を感謝してくれているのは実に嬉しいことです」