東京・神奈川で2020年の中学受験が始まった。入試会場の様子はどんなものなのか。中学受験塾代表の矢野耕平氏は、入試前日の1月31日に東京・港区にある私立の女子中高一貫校・普連土学園を取材した。矢野氏は「受験生に力を存分に発揮してもらいたいという、おもてなしの心を感じた」という——。

港区の普連土学園、中学受験の前日の「準備」に完全密着

1月31日午後2時。

わたしは東京都港区にある普連土(ふれんど)学園という女子中高一貫校の校舎にいた。在校生たちがていねいに掃除をしている。付き添いの教員は「入学試験会場づくりチェックシート」と書かれたプリントを手に持っている。

翌日2月1日から東京・神奈川の私立中学校で受験がはじまる。同校では入学試験に先立ち、「大掃除」をする。普段は当番制で教員と生徒が一緒になって掃除をする。そのうち年5回ある「大掃除」のひとつが入試準備にあたる。この日は金曜日だったので、生徒たちは午前に授業を受け、午後から大掃除に取り掛かる。

中1の教室をのぞいてみると、教員と生徒たちが和気あいあいと語らっていた。いつもこんな雰囲気で掃除をしているのだろうか。生徒に「受験生に対してどう思う?」と声をかけてみると、こんな答えが返ってきた。

「(昨年)わたしは入試でとても緊張して、前日の晩はなかなか寝られなかったです。とにかく明日はがんばってほしいです」

「解答作業に集中できる場を整えることです」

会場設営の指示を出していた中1主任の阿部えみ先生は言う。

「明日やってくる受験生たちの中には2カ月後にこの教室で制服を着て学び始める子が大勢いるでしょう。わたしたちがいまできることは、試験時に一切不快な思いをすることなく、解答作業に集中できる場を整えることです」

掃除の様子を観察していて、気づいたことがあった。机や椅子、床などの受験生が使用する室内の掃除だけでなく、教室外のベランダ側の窓枠などもていねいに拭いていたのだ。受験生の目に触れるとは思えない。だが、生徒たちは一心不乱に拭き上げている。わたしは胸を打たれた。この学校の入試に臨む思いが透けて見えるように感じたのだ。