「歌え! 歌え!」教室内で教員が歌うまでは静かにしない
この話を平先生に振ってみた。
「新しい先生が着任すると生徒たちから『洗礼』を浴びせることがあります。『歌え』コールが起こって、歌うまでは静かにしないとかね。『歌え! 歌え!』というコールが職員室まで聞こえるんですよ(笑)。ああ、また何かやられているなあと」
さらに、平先生はご自身の若かりし頃を思い出し、苦笑した。
「昔、ぼくが最初に担任を受け持ったクラスの話です。ある時、生徒たちが盛り上がって、わたしは歌を無理やり歌わされました。それだけではありません。そのあと生徒たちに胴上げされながらずっと校内を移動し、そのまま階段を下りていって、最後はプールに投げ込まれた。ま、何人かはプールに道連れにしてやったんですがね」
そんなとき、平先生はどのような気持ちを抱いたのだろうか。
「ぼくはそのとき嬉しかったですよ。生徒たちから(麻布の教員として)『承認された』と誇らしい気持ちになったのでしょう。いまの若い先生なら多分怒っちゃうかもしれませんが」
「自分たちのほうが教員より優秀だと思っている」
麻布の生徒たちと教員の関係性はかなり特異であることが分かるだろう。「長幼の序」に重きを置く人はこれに違和感を抱くばかりか、生徒たちの言動に対して眉をひそめてしまうかもしれない。
なぜ、麻布の生徒たちは教員に対しタメ口を叩き、ときには教員にとって酷なふるまいを見せるのか。
卒業生は言う。
「麻布生ってみんな俺たちは何でもできるぜっていうプライドを無駄に持っている」
平先生はこう分析する。
「自分たちのほうが教員より優秀だと思っているんじゃないですか。ぼくらは入学試験を受けて合格したけれど、先生たちはそうじゃないでしょ、という思いがあるんじゃないですかねえ」