AI社会でも人類は順応して生き続ける
巨大プラットフォーマーである米国のGAFAや中国のBATの成長に伴い、アリババのような企業が提供するAIによるソーシャル・スコア「芝麻信用」などのサービスが台頭する状況を指して、ドイツの政治学者セバスチャン・ハイルマンは「デジタル・レーニン主義」と表現した。
しかし東は「共産主義をAI社会のメタファーとしてもち出すのは間違いではないか」と指摘する。
「共産主義というのは、所有権を廃止するなどの人間の本性に反することをやらせる体制です。一方で現代の巨大デジタルプラットフォーマーは、人間の本性に反することをやらせていません。GAFA批判やBAT批判をしてもしょうがないんです。なぜなら彼らが提供するサービスは人間の本性に基づいていますし、プラットフォーマーが交代しても、また同じものが出てくるだけですから」
巨大デジタルプラットフォーマーの発展の先に、AIによる人類の支配を恐れるような考え方も登場しているが、東はその指摘に対しても、「今の世界と本質的に何が変わるのだろう?」と疑問を呈する。
「いまぼくたちが生きている世界は、世界の超富裕層26人が資産150兆円をもち、それは世界の貧困層38億人と同額と言われています。ごく少数の人々の意向によって世界はガラリと様相を変えている、とも言えるわけです」
必要なのは「人間の動物性を意識した社会設計」
「それでもぼくたちは普通に生きている。だからこれからも、『AIに富が集中していておかしくないかな? でもやむなし』と、適度に対処するだけだと思うんです。ぼくらが考える以上に、人間は支配や権力に対して柔軟です。AIやロボットの登場によって、わたしたちのアイデンティティや日常的な感覚、暮らし方は大きくは変わらないと思っています」
そして、そのような人間の動物的な側面を意識した上での社会設計が求められていると、東は提唱している。
「いまや人間性は、動物性や機械性のノイズとしてしか存在しないんです。人間は基本的に動物なんですよ。ただ与えられたモノを食べ、働けと言われたら働き、何も考えずに税金を納め、選挙に行ったらなんとなく政党に票を投じるんです。ゆえに人間の動物的な部分と人間的な部分を考えたときに、どうバランスをとるかが社会設計にとって重要です」