デジタル情報があふれる社会に、人間は適応できるのか。哲学者の岡本裕一朗氏は「大量のデジタル情報は、人間の処理能力では太刀打ちできない。これから先、人間は動物化するタイプと、超人化するタイプに分かれていく」という——。

※本稿は、岡本裕一朗・深谷信介『ほんとうの「哲学」の話をしよう』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

撮影=中央公論新社写真部
玉川大学文学部名誉教授の岡本裕一朗氏(左)、博報堂ブランド・イノベーションデザイン副代表の深谷信介氏(右)

デジタル情報は「人間の身の丈に合わない」

【深谷】この20年ぐらいで情報の量も質も動き方も相当変わってきていて、哲学も広告も大きく変わりつつあるのはまぎれもない事実なんですが、あふれる情報をどう扱っていいのか、ぼくらはまだわかってないですよね。人間は、このデジタル情報の扱い方をいつかうまくできるようになるのでしょうか。こうやればいいということがわかるようになるんでしょうか。

【岡本】ならないと思います。無理です。

【深谷】そうですよね、やっぱり。

【岡本】一つには、これはイギリスの理論物理学者スティーブン・ホーキング(1942~2018)が言ったことにもかかわるのですが、人間が取り扱う情報は基本的にはアナログ情報なんですね。そしていくら情報が増えても、その情報をさばく人間の脳の処理能力は1万年前から進化をしていないんだと。なので高速計算されて繰り出される膨大な量のデジタル情報は、そもそも人間のアナログ的な情報処理能力では太刀打ちできない。要は「身の丈に合わない」んです。したがって、それにきちんとしたかたちで対応できるようになることはたぶんないだろうと思うわけです。

ホーキング博士は、「完全な人工知能の開発は人類の終わりを意味するかもしれないと思っています。……独自に活動し始めどんどんペースを上げながら自己改良していくでしょう。……緩慢な生物学的進化に制限されるヒトはそれと競争できず、地位を取って代わられる」とも言っています。これは情報に関しても一緒だと思います。