他の観客の「影響」も受ける

【猪子】だからこの「運動の森」では、強制的に複雑で立体的な空間の中に鑑賞者が入ることによって、空間認識能力を高めようとするプロジェクトなんだよね。

フロアにあるのは、身体中を総動員しないと進めないような、さまざまなかたちの立体的な作品。たとえば、チームラボが独自開発した、同時に複数人が参加できるトランポリンを使ったこの作品(『マルチジャンピング宇宙』)では、隣で跳んでいる人の影響を受けて、自分がいる場所が沈んだり跳ね上げられたりする。

©teamLab
『マルチジャンピング宇宙』

【宇野】「運動の森」の世界にはこれまでにないくらい広い『グラフィティネイチャー』(『グラフィティネイチャー 山山と深い谷』)が待っていたね。本当に山を登っている気分だったよ。しっかり歩かないといけなくて、真剣なダンジョンでビビった(笑)。

【猪子】こういった「身体で世界をとらえ、世界を立体的に考える」体験を通じて、脳の海馬を成長させ、空間認識能力を鍛えることができる「創造的運動空間」をつくろうとしているんだよね。そうした世界を立体的にとらえて考える力って、言葉通り従来の知とは次元がひとつ違うと思うんだよ。まあ本質的に言いたいのは、そんなふうに違う次元で考える「高次元的思考」と呼ぶべきものなんだけど、ちょっとわかりにくいから「立体的」にしてみた。

「二次元」対「三次元」の思考を乗り越える

【宇野】そもそもチームラボは、最初に「超主観空間理論」に基づいてモニターの中のアニメーションの作品をつくるところからスタートして、それを三次元に置き換えていくということが、この数年の活動の根底にあったと思う。そこには、僕らが虚構の中にしか存在しないと思っていたものを、三次元の現実で味わえるという驚きがあったと思うんだよ。そのことと、チームラボがつくるアートの世界だけで「境界のない世界」が存在できることは、比喩関係として綺麗に重ね合わせられると思う。

©teamLab
「teamLab:Au-delà des limites」展より、『世界は暗闇から生まれるが、それでもやさしくうつくしい』

たとえば、猪子さんは「平和が何より大事だ」という話をよくするじゃない。国家とか平和って実際に存在するものじゃないけど、世の中に確実に存在していると我々は信じて生きている。そういった、本当は存在していないけど僕らの脳の中だけにあるものは、すごく二次元的なものだと思うのね。

そして今、我々はそうした「人間の想像力がなければ存在できないもの」を信じられなくなってきている。そのときに、猪子さんはそれを信じられるようにするために、テクノロジーの力を使って二次元を三次元に引き出している。そしてそのこと自体が、せっかくコンピューターの力で自然と同じように境界のない世界に近付いている僕たちの社会を後押しすることになっていると思うんだ。