量子コンピュータは量子力学の現象を使った計算機。

【田原】おかしいよ! クルマだって、右に曲がりながら同時に左に曲がるなんてできない。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所へ入社。テレビ東京を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。著書に『起業家のように考える。』ほか。

【山城】クルマもごくわずかな確率で左右同時に曲がる現象が起きていいんです。ただ、クルマは大きいのでその確率がものすごく小さい。

【田原】そんなのありえない! 同時に曲がるなんて、ごまかしだ!

【山城】きちんと数式でも説明されていますし、実験も、それを支持しています。

【田原】実験で証明されている?

【山城】というか、まず実験で、それまでの物理学では説明できない現象がたくさん確認されました。現実に起きたことを説明するには新しい理論が必要で、それが量子だったと。

【田原】たとえば?

【山城】そうですね……。田原さん、中学のときに「電子は原子核の周りを回る」と習わなかったでしょうか。実はあれ、古典力学では説明できません。電子は回ると光を放ちます。光ればエネルギーを失うので、古典力学に基づけば原子核に吸い込まれることになります。でも、実際には電子は原子核の周りを回り続けている。つまり古典力学は間違っていたわけです。では、なぜ回り続けるのか。物理学者らは「電子が波だから」と説明しました。僕が電子で波だとしたら、ここにもいるし、同時に少し横にも存在確率がある。そういう重ね合わせ状態を仮定すると、現実の現象を説明できたのです。

【田原】波ってどういうことですか。動いてるってこと?

【山城】そうです、僕も波で動いているし、田原さんもそう。ただ、観測できないくらい小さな幅でしか揺れていないので、見てもわかりません。なぜ大きいサイズだと波の性質が見えなくなるのかというのは、環境との相互作用が主な理由ですが、イメージするとしたら、大きくても小さくても波の幅は同じで、小さいと相対的に揺れが大きくなるんです。

【田原】つまりニュートンなんかの力学は波を認めないで、量子力学は波を認めるわけね。まだ信じがたいですが、少しイメージできたところで本題に入ります。山城さんが研究する量子コンピュータって、何ですか。スーパーコンピュータと何が違う?

【山城】量子コンピュータは量子力学の現象を使った計算機。スーパーコンピュータの上位互換だと勘違いされますが、そもそも仕組みが違います。普通のコンピュータが0と1の足し算しかできないとしましょう。それに対して、量子コンピュータは0と1の重ね合わせによる足し算が許されます。具体的にいうと、普通のコンピュータが0と1を足すのに対して、0と0、0と1、1と0、1と1を同時に計算できる。パターンは2のn乗で、nは量子ビット(量子コンピュータを構成する最小単位)。2量子ビットなら、4パターンを並行的に処理できる。

【田原】なるほど。だから速いのか。