読書家として知られる出口治明さん(立命館アジア太平洋大学<APU>学長)の近著は『座右の書「貞観政要じょうがんせいよう』(角川新書)だ。『貞観政要』は、帝王学の教科書として読み継がれてきた中国の古典。出口さんは「この本にはリーダーが『裸の王様』に陥らないための方法が書いてある」という——。
撮影=KADOKAWA
立命館アジア太平洋大学 出口治明学長

部下に「自分の耳や目」になってもらう方法

太宗・李世民は、有能な人材を登用して能力を発揮させるとともに、彼らの諫言かんげん(目上の人の過失を指摘すること)に耳を傾け、常に自己を律していました。

李世民が傑出していたのは、自身が臣下を戒め、指導するばかりではなく、臣下の諫言を喜んで受け入れたことです。臣下の忌憚きたんない諫言を聞き入れることで、裸の王様にならないように努めたのです。

李世民には多くの側近がいましたが、なかでも、

魏徴ぎちょう
房玄齢ぼうげんれい
杜如晦とじょかい

の3人は、優秀な重臣として李世民を補佐しています。

太宗は、世の中の様子を正しく知っておかなければ、国は滅びると考えていました。

けれど、君主という立場がある以上、そう何度も宮中の外に出るわけにはいきません。そこで、臣下たちに、自分の目と耳になるように命じました。

「私は宮中の奥にいなければいけないので、天下の出来事のすべてを知ることはできない。だから、その任務をあなたたちに任せ、私の耳や目の代わりをしてもらっている」
(巻第一 政体第二 第七章)