読書では得られない、「読書会」ならではの面白さ

1冊の本をめぐって、不思議な現象が起こることがある。その本を読んだ感想は「つまらなかった」のに、読書会に出てみたら、すごく面白くて盛り上がったというケースだ。それが最も顕著だったのは、名古屋文学サロン月曜会の第84回、課題本はサミュエル・べケット『ゴドーを待ちながら』のときだった。

不条理演劇の代表作として演劇史上に名を残している戯曲だが、ただ舞台上で2人の男がゴドーを待ち続けるだけという話で、参加者のほとんどが「まったくわからなかった」「少しも面白くなかった」という感想を抱いて読書会に参加してきた。ところが、終わったときには「こんなに面白い読書会は初めてだ」という人が続出したのだ。

「ここに、読書会の面白さがある」と山本さんは言う。

「じつは、自分で読んですごく面白くて理解もできたという本よりも、何だかよくわからなかったという本のほうが読書会は面白いんです」

読書の面白さというのは、自分のなかで「ピントがバチッと合う」喜びだ。最後までそれがないと、「つまらなかった」という感想になる。読書会には、何人かはピントを合わせて楽しんだ人がいる。その話を聞くことでピントの合わせ方に気づいたり、自分だけでは到達できない感覚に開眼したりできる。

「他の人や場所の力を借りて、新しい世界への窓をひらく。これが、読書会の醍醐味です」

「来る者は拒まず、去る者は追わず」の徹底

猫町倶楽部の読書会への扉はいつもすべての人に開かれている。入るときはもちろん、出るときも同様だ。

「参加者を囲い込むことはまったく考えていません」

その思いは、会員数が増大したいまも月額などの定額会費制ではなくその都度参加費を支払う仕組みを続けていることにも表れている。

「毎回、みんなが自分の意思で参加するかどうかを決める。その緊張感があるおかげで、魅力的な会であり続けようという気持ちになれます」

だから、次の参加を促すようなプレッシャーをかける発言をしないように極力気をつけている。ライバルの読書会の存在もまったく気にしていない。参加者が自分たちで別の読書会を立ち上げても問題ないという。

「うちが楽しければ、また来てくれるはずですから」

写真提供=猫町倶楽部
半年に一度、参加回数0~2回までのビギナー限定イベントも開催している。懇親会やダンスパーティなども組み込まれていて、参加者同士の距離がぐっと縮まる。猫町倶楽部では結婚するカップルも続々誕生しているという。

出入り自由のコミュニティゆえに、トラブルが生じることもある。ある参加者について、多数のメンバーから除名の要望が寄せられたこともあった。特定の思想傾向に基づく発言をTwitterなどで行っていることが他の参加者を傷つけていることが問題視されたのだ。

彼は読書会の場では自分の思想を人に押し付けるような発言はしていないし、除名すれば「考え方の違う人間を排除する」という前例ができてしまう。また同じようなことがあれば、「除名」で対処しなくてはつじつまが合わなくなる……。

問題となっていた男性は「他の人の言うこともわかるから、自分を除名にしてほしい」とまで言ってきた。しかし、最後の最後に除名しないことを決めた。

「13年やってきたなかで、いちばん悩んだ」という山本さんだが、このコミュニティを守りたいという思いがある人は排除されないという安心感が猫町倶楽部を支えていると再認識したのだ。

「全員を受け入れるという原点に戻ったんです」。

互いの違いを受け入れることが「ダイバーシティ」を認める第一歩だが、いうほど簡単ではない。合議制ではなくワンマンで運営してきたからこそできた決断だった。