10代から60代までがフラットにつながる

「最初は、ここまで大きくするつもりはなかったんです」という山本さん。読書会への参加希望者がどんどん増え続けること、とりわけ、ひと回り以上も年齢の違う若い人たちが参加してくれることに驚いたという。続けているうちに単なる読書会を超えたコミュニティ感が醸成されていくことに気づき、「育てていくと面白くなりそうだ」という感触を得た。

猫町倶楽部主宰、山本多津也さん。同副代表の朴文彦さんら、親しい友人たちを誘って2006年に第1回読書会を開催。名古屋から全国に広がり、いまや1年でのべ9000人が参加する。

とはいえ、大きくすることが目的ではない。基本のコンセプトを変えるつもりもない。

「ただ、ブレーキを踏むのはやめようと思いました」

参加者の年齢は、10代の高校生から60代までと幅広い。父親が息子と一緒に参加するとこともある。一般社会のなかでは年齢差が大きい場合、例えば上司と部下、先輩と後輩といったある種の関係性が伴うことになり、フラットに話す機会はほとんどない。

「でも、ここではただ同じ本を読んだ者同士として会話が始まるんです」

それがとても新鮮だったという。会の初めに簡単な自己紹介などを互いにする時間はあるが、話す内容に決まりはなく、年齢や職業を明かす必要もない。名前さえ明らかにしなくても構わない。

「本の話で何度も盛り上がって、すごく仲良くなったのに、じつは相手のことをよく知らないというのがすごく面白かったんです」
「こういう心地よい関係性は、なかなか他ではつくれないと思います」

ヒエラルキーの芽は徹底的に排除する

猫町倶楽部の読書会はこんなふうに行われる。

参加者は6~8人で一つのグループをつくり、必ず1人、ファシリテーターと呼ばれる司会役を立てる。最初に自己紹介の時間があり、その後、課題本への感想を順に1人ずつ話してもらう。本のなかの気になった箇所や面白かったところなどを自由に話したうえで、それぞれをみんなで掘り下げていく。

写真提供=猫町倶楽部
読書会では6~8人で一つのグループをつくり、ファシリテーターはじゃんけんなどで決める。仕切りのうまい人や、常連のメンバーが場を支配しないようにする工夫だ。この日の課題本は川端康成の『眠れる美女』。各地の読書かいで繰り返し取り上げる「王道本」だ。

時間は1時間半から2時間程度。大勢が集まり会場内にたくさんのグループができたときなどは、大声で話さないと声が届かないくらいの盛り上がりを見せることもある。進行を担う大切な役割であるファシリテーターは、常連で仕切りの上手い人にあらかじめ依頼しておくという方法で選んでいた時期もあるが、いまは、3回以上参加している人のなかからじゃんけんで決めることが多い。それには理由がある。

「何度も繰り返し同じ人がファシリテーターをやっていると、その人を中心としたヒエラルキーができてしまうことに気づきました。それは絶対に避けたい。フラットな関係性を保つためには、絶対に上下関係をつくってはいけないんです」

読書会を円滑に進めるためには、司会役は仕切りが上手な人のほうがいいに決まっている。だが、ここでは誰もが対等であるということが優先される。