開催時期が真夏になるため、暑さ対策が問題となっていますが、すべてのアスリートが同じ条件で競い、そして持てる力を十分に発揮できる環境は大切です。また、コンディションを整えるためにも、生活のリズムや、適切な睡眠の確保が必要です。そのうえで、アスリートたちは与えられた条件に合わせて調整を重ねていくのです。

「早朝に行われる競技を担当するボランティアは、終電で会場入りして、何時間も待つことになる」という意見もありますが、日本の組織委員会も当然時間のつぶし方くらいは考えるでしょう。ボランティアなくして大会は成立しません。私は誰よりも彼らに感謝しているのです。

お台場のオープンウォータースイミング(OWS)の問題も把握しています。19年8月のパラトライアスロンのワールドカップでは大腸菌のせいでスイムが中止になりましたが、環境の保護・浄化を促進することも五輪活動の重要な一部です。まだ1年の時間がありますから、これも日本の組織委員会が解決し、五輪のおかげで環境の浄化も進むでしょう。したがって、OWSについても会場の変更は必要ない、東京の名所で予定通り決行すればよいというのが私の考えです。

何度となく政治に翻弄された

ここで私が何より強調したいのは、「ボイコット」が選手に与える痛みです。

私には本来4回五輪出場の可能性がありましたが、84年のロサンゼルス五輪はボイコットで出場できませんでした。最終決定を聞かされたのは、2カ月前の5月だったと思います。率直に言って、もしロスに私が出ていれば金メダルの可能性は非常に高かったでしょう。優勝記録が5メートル75で、あの年の私のベスト記録は5メートル94でしたからね。当時私はまだ20歳で、深く考えることもありませんでしたが、その後だんだん痛みが襲ってきました。大部分のアスリートにとって、五輪に出られるチャンスは1度しかありません。だからこそ、政治が介入してアスリートのたった1度の夢を潰すようなことがあってはならないのです。

IOC委員は常にアスリートとスポーツにとって何が一番大事か、という視点から物事を考え、政治の枠とは別次元で決断を下すことが義務付けられているのです。政治の揉め事がそのままスポーツに持ち込まれたら何事も収拾がつかなくなってしまうでしょう。