誰が金メダルを獲ると思うか

そのように考える私だからこそ、選手時代から引退後はIOC委員になることを目指していました。スポーツを通じて世間に恩返しをしたかったのです。IOCの一員であることは大いなる誇りであり、アスリートを保護するための変革をもたらし、大会運営にとってどうすることが一番良いのかを模索し続け、大会の規模そのものは大きくしていきながらもいかにして費用を削減していくかを考え、また、様々な都市にこの素晴らしい大会開催の機会を提供できるよう、尽力を続けています。

東京五輪のマラソン開催地はどこになるのか。写真は日本代表選考会のマラソングランドチャンピオンシップ。(共同通信イメージズ=写真)

今回は日本が、全世界のアスリートがともに暮らし平和と共存共栄を実現する1つの村を提供してくれるのです。この村においては、言語の障壁があったとしても、スポーツを通じてお互いに自然と敬意を払うようになるわけです。

13年にトーマス・バッハ会長が就任してからIOCはさらに改革を推し進め、以前よりもさらに透明性が高く開かれた組織への変革を続けております。会長は国連との連携も深めつつ、今後もさらに多くの都市で大会を開催しながら若い世代がもっとスポーツと触れ合える世界を目指していきます。

五輪には国そのものの思考回路を変え、国全体を開かれたものとしていく力が備わっています。平昌五輪があったからこそ、ソウル五輪では実現しなかった北朝鮮の大会参加と、五輪期間中における国連加盟国の停戦を実現しました。これこそが五輪が持つ偉大な力であり、これに比肩するスポーツイベントは地球上のどこにもありません。大会の規模からいっても、サッカーのワールドカップでさえ霞むほどの大きなイベントなのです。

20年の東京五輪には、多くの有望な選手が出場します。私の母国ウクライナからも期待の選手が出場します。ですが、「誰が金メダルを獲ると思うか」と聞かれたら、その質問にはこれまでも答えたことはありませんし、今後も答えるつもりはありません。五輪の重み、大きさはほかのどんな大会とも比べようがありません。私自身4度の出場機会があり、すべての大会で金メダル最有力候補でした。しかし、ご存じの通り金メダルはソウルの1回だけです。ただでさえ重圧がかかる大会で、私が名前を口にしたらさらに重圧をかけることになります。私はこの重圧をほかの誰よりも知っています。

すべてのアスリートが持てる力を東京五輪で十分に発揮し、五輪精神を世界に広めつつ、何人かの選手たちがウクライナにメダルを持って帰ってきてくれることを願う次第です。