トヨタ自動車の超人気車種「プリウス」は周知のように、電気とガソリンを併用して走行する。このため「ハイブリッドカー」と呼ばれるわけだが、これからのビジネスパーソンも資格だけでなく、大学院の学位とのハイブリッドが必要な時代になりそうだ。というのも、21世紀になってから、大学院と資格の関係が極めて密接になってきたからだ。まず法科大学院修了は新司法試験の受験資格であり、会計専門職大学院では公認会計士試験の短答式試験の一部科目免除を受けられる。
新司法試験に関しては、新人弁護士の就職難が問題となり、日本弁護士連合会から「10年には合格者3000人」という計画の見直しが提言されているほか、法科大学院の定員削減も話題となっている。さらに、新司法試験の受験は「5年で3回まで」と制限されているので、最終的に不合格になると再就職が課題となる。一般的な転職限界年齢は35歳とされているので、逆算すると29歳前後以降の挑戦はリスキーというほかない。しかしながら、昔の司法試験は合格率3%で5年や10年の司法浪人は常識だった。それに比べれば、弁護士や検察官、裁判官になりやすくなったことは確かである。
また、公認会計士についても06年度から制度が改正され、1回2段階と大幅に簡略化。しかも、短答式試験と論文式の科目別でも合格を維持(翌2年間のみ)できるようになった。合格者も大幅に増員されているので、会計専門職大学院による短答式一部科目の免除の価値はかなり高くなったといえるだろう。
中小企業診断士は「登録養成課程」を持つビジネススクールがあるので、それを利用すれば二次試験が免除。つまり国家資格とMBAの2つを取得できる。弁理士も知的財産系の大学院なら試験の一部免除が可能。税理士についても会計学または税法の研究で試験の一部が免除されるから、商、経営、経済など幅広い大学院で免除が可能だ(免除申請前に税理士試験一部科目の合格が必要)。
その結果として、資格と大学院の学位を持つ「ハイブリッド型人材」が現実に数多く誕生しつつあるわけだ。
もともと国内ではMBAに見られるように修士号は決して尊重されているとはいえないが、欧米では評価が高い。すでに大学・短大の進学率は50%を超えており、「大学全入時代」などといわれるように、ホワイトカラーで学士号はもはや常識だから、いずれ欧米型の高学歴社会がやってくると想像できるのである。
前述したような免除特典のある資格だけでなく、たとえば登録販売者であればビジネススクールなどでマーケティングを極めるなど、大学院とのハイブリッドの方向は多様にありうる。
社会人を前提とした大学院や専門職大学院では、平日夜間と土曜日の組み合わせなどで働きながら通学できるカリキュラムにしているところが少なくなく、しかも都心にサテライト・キャンパスを持つ大学院が多い。これを利用すれば、わずか2年間(1年制の大学院もある)で大きな差をつけることもできるわけだ。目先の資格だけを追うのでなく、人材としての価値を高めること、それが「ハイブリッド人材」なのである。
※すべて雑誌掲載当時
※図版は『キャリア・チャレンジ2009-2010』(笠木恵司著)をもとに編集部作成