名女優の誉れ高い樹木希林さんは、人々の心に突き刺さる言葉を数多く残した。30年余りもの親交のあった田川一郎氏が、「生への賛歌」というべき言葉を厳選する。
怠惰と合理性から発せられた一言
実は、樹木希林さんは文学座の第1期生なんですね。同期には小川眞由美をはじめ、橋爪功、岸田森、北村総一朗、寺田農ら錚々たる面々がいます。当時の役者は、舞台が一番で、映画が二番、テレビは三番です。いまでは想像しづらいですが、テレビに出演するだけで役者としての評価が下がったわけです。ましてやCMに出るなんて、もう“下の下”です。そんな時代でも、希林さんは積極的にCMに出るんですね。そうしたなかで
「みなさんがおやりにならないのなら、私がやらせていただきます」
という言葉を残していますが、希林さん特有の怠惰な一面と合理性から発せられたものだと思います。
15秒の短い時間で台詞は少ないけど、その割に支払いがいい。断然効率がいいわけです。
「だって台詞を覚えるのが面倒くさいじゃない」
ともいっていました。それでもCMに出る役者は、仲間からは馬鹿にされます。先輩の女優から「あんたCMなんてやっていたらダメになるわよ」といわれても、「いや、私はいいんですよ」とどこ吹く風で、希林さんらしいエピソードがいまでも語り草になっています。