発達障害児に対するサービス
一方で民間分野の課題もある。「儲かるから」という目的だけで、専門家の知見を取り入れずトラブルに発展するケースもあるからだ。12年に児童福祉法が改正され、発達障害児に対するサービスの量的緩和が図られた結果、特に学齢期の子たちの放課後預かりを目的とした「放課後等デイサービス」事業所数が激増したが「療育」とは程遠いお粗末な施設も存在するようになってしまった。
福岡を中心に発達障害児支援事業「UNICO」を開始したウェルモの鹿野佑介社長はこの分野における質の改善を政府に提言している。「現状では受け入れる児童数に対する職員の数や施設の面積数など、設備面がクリアしていれば開設可能です。今後はぜひ専門的な療育を行う施設としての質もポイントとして評価してほしいと求めています」。
親も無数に存在する施設を選ぶ際の基準がわからず、長時間の預かりが可能か、車の送迎があるかなど目先のサービスを優先しがちだ。
公立学校、民間塾それぞれの可能性と課題が見えてきたが、最後に改めて提言したいのは、やはり公立学校における制度の見直しだ。
発達障害児を持つ家庭のすべてが、子どもの療育に時間と労力、資力を費やせるわけではない。選択肢が豊富な都心部の一部の「意識高い系」家庭のみが、上質な療育を子に受けさせられる構図は改善されていくべきだろう。発達障害は放置すれば、学級崩壊や不登校などの二次障害につながる。本来「障害」でないはずの子どもを障害者にせずその子の特性が人生を明るく彩るような教育を選べるよう、家庭と教育機関、民間多方面からの改善を期待したい。
▼「枚挙にいとまがない」発達障害傾向の偉人たち
古今東西、“発達障害”の傾向を持つ偉人は枚挙にいとまがない。科学の分野においてはエジソンやアインシュタイン、音楽ではモーツァルトやフレディ・マーキュリー、美術ではゴッホやミケランジェロ、作家のジェームズ・ジョイスや芥川龍之介などはそのほんの一例だ。もちろん現代の精神科医が直接診察することができない以上、正確な診断を下すことはできない。
だが日記や書簡、同時代人の回想などからは、彼らの色濃い特性が浮かび上がってくる。近年ではアップルのスティーブ・ジョブズやマイクロソフトのビル・ゲイツ、ハリウッドではトム・クルーズやスティーブン・スピルバーグ、日本でも俳優の栗原類さんや歌手の米津玄師さんなどが、それぞれの診断名や特性についてカミングアウトしている。
彼らの人生から学べることは何だろう。彼らは決して“秀才”ではなかった。少なくとも多くの学校や家庭で望まれるような「素直でお友達が多く、運動も勉強も得意な良い子」ではなかった。むしろ得意・不得意の凸凹が激しいからこそ、「これ」と定めた分野に集中できたし、場の空気を読み周囲を忖度しないからこそ、常識破りの創作や研究、起業を可能としたともいえる。