それでも社会的ニーズが高く、教育に関わる企業として大切な分野であるとの思いが、このプロジェクトにつながっていると語る。
強みを伸ばす教育の必要性
柘植教授は取材のなかで発達障害児の弱みを補うだけでなく、強みを伸ばす教育の必要性も言及している。
「日本の発達障害支援は、学習面や行動面で困難を示す子の救済の意識が強いですが、海外では『2E(twice-exceptional)教育』の考えが一般的です。訳すと『二重の特別支援』。天才を表す『ギフテッド』とも似ていますが、発達に凸凹がある子は、オールマイティに教科がこなせない半面、ある分野で特異な才能や能力を持つことが多い。
米コロラド州立大学テンプル・グランディン教授は、自らの自閉症の特性を生かし、(※)非虐待的な家畜施設の設計者として世界的に有名になりました。ビジネス分野でも発達障害傾向の起業家は多いです。それに気づいた海外では特性を持つ子を積極的に集めて、英才教育プロジェクトもスタートさせています」
そんなポジティブな側面からの教育を介しているのは、急成長を続ける日本企業、LITALICOだ。
幼児や学齢期サポートを行う「LITALICOジュニア」、就労支援の「LITALICOワークス」、発達障害情報サイトなど、発達障害者を多角的にサポートする事業展開で存在感を放つ同社は、独自の「研究所」も持つ。大学の専門機関と公立学校からの教員研修として実習も受け入れるなか、IT×ものづくり教室として14年から開始したのが「LITALICOワンダー」だ。
事業部長の毛利優介氏によると、最初は単発プログラムからスタートしたという。「独自のこだわりや興味の範囲が限定されがちなお子さんに、興味の幅をひろげてもらいたいとキャンプや陸上、料理などの単発教室を試みるなか、特に可能性を感じたのがプログラミング教育でした。普段は10分と座れない子が3時間ぶっ通しで熱中したり、場面緘黙で一切喋らない子が、一生懸命自分の作品を示したり、明らかに発達障害の子にも向いている分野だと実感したんです」。
1人で黙々と作業できること、視覚情報操作であること、パターンを見いだしスモールステップで成果が表れることなど、プログラミングは発達障害との相性が良い。
現在は一般児童向けプログラミング教室として人気を博しているが、3割は発達障害児やグレーゾーン、不登校などの経験がある児童であり、年1回の「ワンダーメイクフェス」は1万人を超すイベントに成長した。
毛利氏は、「障害とは結局、社会に個性がフィットするかどうかの問題なんです」と語る。その意味ではITやAI分野の発展が期待される「ソサエティ5.0」時代や、いま話題の「STEM教育」(科学・技術・工学・数学)分野において、才能や適性を発揮できる発達障害児は増えていくのかもしれない。
(※)食肉加工場に、トラックで運ばれてきた牛がリラックスするための水と空間を用意するなどし、より穏やかで効率的な加工プロセスを設計した。人道的な家畜の取り扱いができ、工場の従業員の安全対策にもつながった。