では、どの容器が酸化に強いのか。酸化に大きな影響を与えるのは、酸素と温度だ。

「ビールを容器にパッケージするときに、多少なりとも空気に触れて容器に酸素が混入します。容器の液体量に対して酸素量の割合が多いほど、酸化のリスクは高まります。樽は液体量が多くて酸素の割合が低いので、酸化に対して有利です」(田山氏)

画像=キリン公式サイト
ビールに酸素が入っていく図。高温になればなるほど、酸化は急速に進むといわれている。

ビンと缶の比較ではどうか。

「ビンは首の部分に空間ができますが、栓をする前に水をピュッと吹き付けて泡立たせます。その泡で空気を追い出したところに栓をするので、酸素はほとんどない状態です。一方、缶は巻き締めしてパッケージするので、ビンと同じやり方ができない。炭酸ガスを吹きかけて酸素を追い出す工夫をしていますが、ビンに比べると不利ですね」(田山氏)

温度については、高温になるほど酸化が進む。その点でも不利なのは缶だ。ただ、容器の特性より、扱いやすいことが逆にあだになっているという。

「缶は使い勝手がいいため、車のトランクにケースごと入れっぱなしにするなど、温度の高いところに無造作に置かれがち。買ったらすぐに冷蔵庫で保管してください」(田山氏)

ビンや缶は泡を立てて注ぐとマイルドに

酸化だけを考えれば、「樽>ビン>缶」の順に軍配が上がる。ただ、ビールの味を左右する要素は他にもある。たとえば日光も、その一つ。ビールは光に当たると、獣の毛皮のような「日光臭」を放つことがある。

「ビールビンの多くが茶色なのは、少しでも日光の悪い影響を避けるため。ただ、それでもビンは光の影響を受けやすい。実はコンビニやスーパーの照明も危険。照明のすぐ横に陳列されたビンのビールは、正直お勧めしません」(田山氏)

酸化で不利な缶、日光で不利なビン。そうすると樽が正解である気がしてくるが、田山氏はビンや缶の良さを次のように強調する。

「ビンや缶からグラスに注ぐと、泡が立ってビールの中のガスが抜けて、飲み口がマイルドになります。ビールを注ぐときは泡を立てないのがマナーとされていますが、マイルドが好みの方は、むしろ大胆に注いだほうがおいしく飲めます」

「缶はアルミの味がする」は気のせいだった

実は今回、同じ疑問をアサヒビールにもぶつけている。容器による差についてはキリンビールとほぼ同様の回答。マーケティング本部ビールマーケティング部次長の松橋裕介氏は「中身はどれも同じ」と太鼓判を押す。

缶については「アルミの味がする」という声も聞かれるが、「アルミの味なんてするはずがありません」ときっぱり。実際、金属成分が染み出ていたら大変なことになる。「缶で飲んでいる」という意識が、味覚を変化させているにすぎないのだ。