「日本人はリスクをとれない」という思い込み

多くの日本人は、変化や変動を嫌います。できるだけリスクをとることを避けて、現状維持を好みます。だから、何かに挑戦することができずにいるのです。

「日本人とリスク」の問題を考えるとき、私はよく日本史にヒントがあるという話をします。誰もが学校で学んだことですが、奈良・平安時代に日本は遣唐使を中国に派遣しました。当時の船は20メートル程度の大きさで、航海の技術は未熟なものだったそうです。なんと、中国へ渡る船の約半分は沈没してしまいました。50%の確率でしか中国に渡れなかったのです。

それでも、1隻の船には100人ほどの遣唐使が乗りました。彼らは、当時の高官や留学生で、いわば「超エリート」の人たちです。遣唐使のときは4隻の船を出しました。なぜなら、行きの船で2隻が沈み、帰りの船では1隻が沈む計算になるからです。

300人ものエリートや財産を海の底に沈めてでも、中国の政治体制や文字、文化、宗教を取り入れようとしたのです。かつての日本人はこうした「リスクテイク」をして、貪欲に外の世界から学びました。日本人は決してリスクをとれない民族ではありません。

新しい価値を生み出すには、リスクが必ず伴います。私自身もリスクを常に考え、リスクをとる人たちを応援し、彼らの成長を近くで見てきました。そして、たどり着いた1つの結論があります。

これからの時代を生き抜くには、「投資の思考」が必要不可欠だということです。

投資家ほど「成長」を近くで見続ける人はいない

みなさんは、私の職業である「ファンドマネジャー」の仕事はご存じでしょうか。ファンドマネジャーとは、投資家からお金を預かり、そのお金を使って投資をする担当者のことです。主に投資先の選定や、売買タイミングの決定をおこない、預かったお金を運用しています。私自身が専門としている投資先は、日本の企業、特に「成長」が見込める中小企業です。

この仕事を夢中で続けてきて、かれこれ約30年になります。中堅企業や急成長するベンチャー企業の経営者たちと毎日のように会い、ダイレクトに自分の仕事への情熱を語ってもらったり、地方にある世界の産業を支える部品をつくっている企業に出会ったり、工場見学で誇りを持って働く従業員たちに感動したり……。そうして働くうちに気づいたことがあります。

それは、私たちが手がけている企業への投資とは、株価への投資ではなく、「人への投資」だということです。