ここで袁紹が採用したのは、烏巣にはわずかな救援軍を差し向けて、本隊は曹操の本陣を攻めるという郭図寄りの折衷案だった。ここまでは、まだ失敗を取り返せる状況だったが、袁紹は何を思ったか、本陣攻撃の責任者に、烏巣の救援を主張した張郃と高覧を当てがったのだ。
「やっても失敗しますよ」と主張する当事者にやらせる――この不可思議な心理を解く鍵が、袁紹の「引きさかれたプライド」に他ならない。
つまり彼は、部下の意に沿わないことをわざわざやらせることによって、「誰がボスだかわかっているんだろうな」と見せつけなければ気が済まない、そんなタイプだったのだ。
張郃と高覧は、必死で曹操の本陣を攻めるが、予想通り守りが堅く攻め落とせない。それは現場で戦ってきた彼らにはわかり切ったことだった。
しかも、参謀の郭図が、本陣を落とせない責任を2人にかぶせようとしている、という情報が2人に伝わってくる。現代の企業で、経営陣や上司の決めた計画を達成できなかった責任が、現場や部下に押し付けられるのと同じ図式だ。
張郃と高覧の2人は、もうやっていられないと、曹操軍に白旗をあげる。袁紹軍の主力がみな降伏してしまうという予想外の結果がここに生まれ、勢いに乗った曹操軍が袁紹軍の本陣に殺到、袁紹側は総崩れになって壊滅した。
袁紹は、そもそも曹操と開戦すべきか否かを決める会議のさいにも、反対した参謀を牢屋に放り込み、敗北が決まると、処刑するという仕儀に及んでいる。
袁紹のような、高いプライドと自信のなさ――特に若い時分は、誰しもこんな一面を抱えがちなのだが、年を重ねるうちに、それをうまく解消していかないと、彼の二の舞になりかねないのだ。