「女性の研究を手助けしようと思った」

自宅からは、米軍の対中戦略や米韓合同演習に関する機密文書などが見つかっており、これらの文書を電子メールで女性に送っていたようだ。調べに対し、機密文書を自宅に持ち帰ったことについて、

「女性の研究を手助けしようと、自分で勉強する目的で家に持ち帰った。女性が中国当局とつながっていたことは知らなかった」

と供述しているという。

この中国人女性は、研究員や研修生向けの「交流訪問者ビザ」で米国に入国し、米国内の大学に在籍していたが、詳しい身元やその後の行方はわかっていない。

一方検察当局は、米軍の重要な機密情報が外に漏れた事実を重くみて、この男に対して禁錮20年、罰金50万ドル(約5500万円)を求刑。地裁は14年9月に女性への機密漏洩を認定して、禁錮7年以上の判決を下した。

色仕掛けで弱みを握る「ハニートラップ」

中国にとってハワイはどのような場所なのだろうか。太平洋軍司令部に勤務したことがある米軍元幹部は言う。

「中国はハワイを情報収集の重要拠点と位置づけており、軍や情報機関が相当数の諜報員をハワイに送り込み、太平洋軍の情報を手に入れようとしている。そのため、米当局は警戒を強めており、中国政府が以前からホノルルに総領事館をつくることを求めているが、米政府はそれを認めていない。中でも女性を使って接触を図るケースが目立つ」

スパイが色仕掛けで外交官や軍当局者を誘惑したり、弱みを握って脅したりする諜報活動は、「ハニートラップ」と呼ばれる。諜報対象は、米国だけではなく、その同盟国にも広がる。米国の同盟国で安全保障を担うある政府幹部は、2016年にホノルルで開催された会議に参加した時のことを振り返る。

「各国から軍事・防衛当局の幹部らが集まる会合でのことです。一連の会議が終わり、最終日の夕食会がホノルル市内のホテルでありました。中国代表団の中には、昼間の会合には出席していなかった20代後半か30代前半の女性がいました。長身でスタイルが良く、チャイナドレスに身を包んでいました。年配の男性中心の会場では存在が際立っており、他国の軍幹部に積極的に声をかけていました。私にも声をかけてきて、『一緒に飲みに行きましょう』と誘われたり、携帯番号を尋ねられたりしましたが、断りました」