目標は桜蔭合格にあらず

Tさんが通っていた小学校では、中学受験をするのは全体の3%。両親も中学受験の経験はない。そんななか受験を決めたのは、父親(34歳)の15歳離れた弟が私立中学に楽しそうに通う姿がきっかけだった。その姿を見て、両親は学力や精神年齢が近い友達と切磋琢磨せっさたくまできる環境を、高校からではなく中学から用意してあげたいと考えたのだ。

しかし、中学受験が珍しい地域のため、塾も少なく、具体的にどう準備すればいいのか最初はわからなかった。転機となったのは小2の6月に受けた全国統一小学生テスト。無料で受けられる全国レベルの学力テストでTさんは偏差値60という結果を出した。

塾でテストの成績表を受け取りながら、父親は女子の学校別偏差値表の一番上位に記された桜蔭を指さして「娘はここに合格できますか?」と尋ねたと言う。回答は「(学力を)維持できれば合格できますよ」。

両親が「桜蔭」という学校名を知ったのはその日が初めて。そして、その日からTさんの第一志望校は桜蔭となった。「目指すならばトップ校。トップを目指すからこそ学力が伸びる」という父親の強い信念があったからだ。

「医師になるなら、日本でトップの東大理科Ⅲ類を目指そう」

Tさんがテレビドラマの影響で「将来は医師になりたい」と言い出した時にも、父親は「医師になるなら、日本でトップの東大理科Ⅲ類を目指そう」と説得。そこからTさんの目標は「桜蔭から東大理Ⅲに進学して医師になる」になった。

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結果としてその目標が親子の道しるべになったと母親は言う。

「理Ⅲに受かる高校生の多くは、圧倒的な合格者数を出している『鉄緑会』という塾に入っています。鉄緑会には誰でも入れるわけではありません。入塾試験があります。でも、桜蔭中なら無試験で入塾できます。そうやって逆算して、桜蔭中に合格するためには、たとえば『次の模試で何番以内に入る』とか、『桜蔭コースに選抜される成績をとる』とか、目標を明確にしながら進められたので、娘も納得して勉強ができたようです」