でも、ダ・ヴィンチは、この欠点を直そうとせず、最後までそのスタイルを貫きました。なぜでしょう?

「遅筆」であるということは、それだけ丁寧であるということ。「未完成」であるということは、それだけ考え抜かれているということ。「指示を無視する」ということは、裏を返せば、オリジナリティーが高い作品ができるということ。

つまりダ・ヴィンチは、「欠点の裏側にある長所」を知っていたのです。そして、長所だけで勝負する方法はないかを模索し、遅筆向きの絵の具を開発したり、前例のない斬新な構図を描いて鑑賞者を魅了しました。

日本人は謙遜を美徳とする素晴らしい文化を持っていますが、その一方で、できていないことに意識が向きがち。欠点を直そうとするより長所を伸ばすほうが効果的なうえに、どんどん自尊力も上がります。

勝者とは、始める人ではなく続けた人のこと

「石は、火切り鉄に叩かれたので、びっくりして声を荒げて言った。『どうして私をいじめるの。人違いでしょう。私を苦しめないでくれる? 私は誰にも迷惑をかけてないのよ』。すると、鉄が答えた。『我慢すれば、素晴らしい結果が生まれるはずさ』。石は機嫌を直してじっと苦痛に耐えていると、やがて素晴らしい火が生じた。その火の威力は、無限に役立つことになった。これは学習を始めたばかりの初心者が、自己を抑えて、地道に学びを続けた結果、偉大な成果を生み出すことにたとえられる」(アトランティコ手稿)

「私は続けるだろう」——。こんなつぶやきが、晩年のダ・ヴィンチ・ノートに書き残されています。何を続けようとしたのか、肝心なことが省略されていますが、とにかく続けることを意識の中心に置いていたのがダ・ヴィンチでした。

ダ・ヴィンチが生涯続けたことは、自己表現のアウトプットであり、自分のメッセージを伝えることです。万能の活躍をしたように見えて、実は「調べてノートに書き続ける」、そして「とにかく絵を描き続ける」という2つのシンプルな繰り返しからすべては生まれました。