「一人の人間」として、子どもと丁寧に向き合う

私がECMOのダイヤルを絞ろうとしたことは、今でも自分の胸の中に澱のように暗い記憶として残っています。心臓マッサージをしなかったことは、あの子の命に線を引こうとしたことになるのではないかと考えます。こうした自分の態度が倫理的に正しいのか、今でも分かりません。

松永正訓『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』(中央公論新社)

では、重度心身障害児の中でも、とりわけ脳の障害が重い子に対して手術をしないという判断を私は批判できるでしょうか? この問いに対しても答えを出すことができません。

ただ、一つだけ確実に言えることがあります。それは、どんな子どもにも人権があるということです。病気が重篤で治る見込みが皆無でも、重い障害が一生消えないとしても、子どもには人権があります。子どもの命は子ども自身のもので、医者がその命の期限を決めるというのは、やはり危うさがあると思います。

子どもの人権を尊重し、子どもを一人の人間として丁寧に向き合っていくことが、医療者には求められるのではないでしょうか。それは大病院の医者でも、開業医でも同じことです。私はそういう思いを大事にしながら、現在、診療を行っています。

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