10数えても怒りがおさまらないなら100まで数える
ニュートンの法則では、作用には必ず反作用が伴うと結論づけられているが、この法則が当てはまるのは物理の世界だけだ。人とのコミュニケーションにおいては、私たちは相手にどう反応するかを自分で選びとることができる。
ひどく腹をたてているときは、相手の言葉に反応しないほうがいい。そんなときに口を開いても、ろくなことにならないからだ。怒りを感じているときは血液が脳から足やこぶしに一気に送られ、あなたの判断力は正常に機能していない。怒りの感情というのは、ヘラクレスのヒドラ退治のようなものだ。頭をひとつ切り落とすたびにふたつ新しい頭が生えてくる。少し時間をおかなければ怪物の姿はもとには戻らない。
交渉の場で怒りを感じたときは、深呼吸をして10まで数を数えよう。それでも怒りがおさまらなければ、アメリカの大統領だったトーマス・ジェファーソンが勧めているように、100まで数えるといい。そうすればあなたの脳は、また冷静な判断ができる状態に戻るだろう。そうしているうちに、交渉相手にも冷静さが戻ってくる。相手の怒りもまた、そのころにはおさまっているはずだ。
苦情が来たら、柔道のように相手の“力”を利用する
交渉術のテクニックのなかでも私がもっとも難しく感じるのは、この怒りをおさめるという行為だ。
たとえば、午前中の大半をカスタマーサービスのホットラインに電話がつながるのを待ちながら過ごし、ようやく誰かと話ができたと思ったら、「残念ながらここでは請求書の金額を修正することはできません」という答えしか返ってこないときなど、私は自分の到達目標を強烈に意識しなおさなければ落ち着きを保てない。
そういうときは、私の目標は苦情を言うことでも電話の相手に八つ当たりをすることでもなく、相手を自分の味方につけて問題を解決することなのだと強く自分に言い聞かせ、なんとか冷静さを保つようにしている。
反対にあなたが苦情を受ける立場だった場合には、攻撃した相手は当然、あなたが自己弁護をしたり反論をしたりしてくるだろうと予測しているだろうから、あなたは相手の意表をついて、相手に同意を示せばいい。「おっしゃるとおりですね。私があなたの立場だったら同じように腹をたてると思いますよ」。そう言えば、相手は返す言葉を失うはずだ。日本の柔道家のように、相手の力を利用して技を仕掛けるのである。
できる限り相手の意見に同意しよう。通常は、無愛想にすれば無愛想な反応が、攻撃すれば反撃が返ってくるものだが、このパターンを崩さなければあなたの目標には到達できない。