見習うべきはラグビー日本代表

【冨山】今いる会社の仕組みがダメだったとしても、“変人”が上に抜擢されていれば、まだ報われる可能性がある。パナソニックなんかは面白くて。(シリコンバレーを拠点にしている)馬場さんもそうですし、ナンバー2の樋口(泰行)さんに至っては、出戻りですから。樋口さんはパナソニックの新人の頃、会社のお金でハーバードに行ったと思ったら、その後に辞めちゃって。60歳くらいになってまた戻って来た。考えてみるととんでもない社員ですよ(笑)。

会社としては、やっぱりエース級の社員が辞めると、いよいよ危機感を持つ。とりあえずハーバードに行かせればいいとか、小手先ではダメなんだって気づく。だから会場のみなさんは自分がエース人材だと思ったら辞めてあげたらいい。そしたら会社も変わりますから。で、変わった頃に戻ってくると。

【馬場】転職経験がない人はシリコンバレーに行ったら変人です。1つの会社に10年もいたら能力的に問題があると思われる。日本は変人と普通人がひっくり返っていかないといけない。

【冨山】その通り。でもそのような起用がメインストリームになるのを嫌だと思っている人は大勢います。今までずっと同じ会社にいてポジションを守ってきた人からすると、とんでもない話と感じるのはもっともですから、そこを変えていかなければなりません。

たとえば、AIの分野で世界トップレベルの人材を雇うとすると新卒でも年収2000万くらいを支払うことになります。でもその上司は年収800万だったりするでしょう。日本の既存組織でやってきた年収800万の人が年収2000万の人材を使うことができるのか? っていう話ですよ。ストレスでしかないから当然無理で、結局は年収500万の優秀な新卒をつかまえて、AIを教えるっていう選択肢を取ってしまう。それではダメだということ。

まさに今のラグビー日本代表と真逆の状態です、日本の会社は。日本のラグビーチームって多国籍でしょう。多様性を受けいれている。会社もそうなっていかないと。

サッカーW杯の成功をパナソニックでも実践

【入山】サッカーも、Jリーグとプレミアリーグはほぼ同時期に創設され、当時は売り上げが同じくらいだった。でもプレミアムリーグの売り上げは今、その頃から10倍以上伸びてJリーグを引き離しています(※1)。それは超グローバルコンテンツになったから。イングランドのマンチェスターには、イギリス人の選手が1人もいませんが、それでもイギリス人が応援するという仕組みができている。これが日本でも必要です。

※1 売上高:Jリーグは約1257億円(2018年度、出所:Jリーグ)。プレミアリーグは約6620億円(2018年度、出所:デロイト)

早稲田大学大学院教授の入山章栄氏
撮影=伊藤 淳
早稲田大学大学院教授の入山章栄氏

【馬場】僕はJリーグの社外理事もやっていまして。サッカーやラグビーのやり方を事業にも取り入れています。30年くらい停滞している日本企業を尻目に、スポーツ界はどんどん進化している。サッカー界の最大の発明は、100年くらい前にワールドカップ(W杯)をはじめたこと(編集部注:1回目のワールドカップは1930年)。FIFAのトップが「国別対抗をやるぞ」って言い出して、当時はみんな「はっ?」ってなった。今までクラブで敵だった人同士が仲間になって、別の監督を立て、別の環境で戦う新しいチームを作る。これってすごいイノベーションですよね。この仕組みを取り入れようとしているのが、僕が今取り組んでいる「Panasonic β(パナソニック・ベータ)(※2)」です。

※2 Panasonic β……パナソニックが米シリコンバレーに置く戦略拠点。企業文化の変革を担う。製品・サービスごとの縦割りの現状を「タテパナ」とし、クロスバリューが生まれる「ヨコパナ」の実現を目指す。

撮影=伊藤 淳
(写真左から)冨山氏、馬場氏、安田氏