「大企業病」はどうしたら克服できるのか

【馬場】僕もアグリーで。日本的な会社は、どんなに若手が戦っても途中でストップする仕組みになっています。この仕組みを変えずして知の探索をしても時間がもったいない。

以前、「大企業病」はどうしたら克服できるのかということに取り組んでいた時期があって。

その時にわかったことは、ふつうの人が、MBAとかハーバードのやり方を企業に取り入れれば取り入れるほど悪化するということです。つまり「知の深化」ばかりをやってしまう。

悪化しすぎてしまった場合の処方箋は西洋医学しかなくて、解体するのみ。でも自らの力で再生能力がある場合は東洋医学が使えます。整えれば自然治癒で回復するということで、僕は今パナソニックでこっちをやっています。結局のところ、イノベーションをストップさせるのは人間じゃなくて、会社の仕組み。

撮影=今井 悠資
パナソニックノースアメリカ副社長の馬場渉氏

ゼロイチという青い鳥探しはムダ

【安田】多くの会社がイノベーションを生み出せていない本質的な原因は、何か新しいことをしなければと、外にばかり目を向けているからだと思います。しかし、若手社員を中心に、社内のどこかにイノベーションの芽になるものやアイデアは湧き出ているはず。くみ取りをせき止める“何か”をなくすだけで一気に動き始めると思います。だからまずは社内の仕組みやルールを変えたほうがいい。新しいルールを作ってしまえば、役員や上司が(任期を終えて)変わったとしても、継続できるでしょう。日本企業は、一度決めたルールは変えにくいですから。

でも実際は、イノベーションというと、社内の人間ではダメだから、外から優秀な人を呼ぼうっていう発想になりがち。それって、新しいことをはじめるにはゼロイチでやらなきゃいけないっていう先入観があるからだと思います。その発想は危険。

撮影=今井 悠資
経済学者の安田洋祐氏

【冨山】大企業でイノベーションとなると、ゼロイチの青い鳥を探し始めてしまう。ゼロイチなんて一生懸命やっている暇があったら周りのビジネスを観察しなさいと。知を組み合わせて新結合させるなんていうのは高尚な言い方で、イノベーションって要はパクリですよ。ヤフーやグーグルにしろ、フェイスブックにしろ、既存のビジネスモデルを進化させることで競争に勝っているわけですから。あのヘンリー・フォードだってそうでしょう。食肉処理場を見て、自動車の大量生産を思いついたそうですから。昔からゼロイチなんてないわけです。

渋谷や六本木のITベンチャー系の若い人たちはこのあたりがうまい。でも経営はできなかったりする。

彼らの中には、ずっと“ガキでいたい”っていうシリアルアントレプレナー(連続起業家)もいるから、それはそれでいい。だって、事業として成熟させていくのは“おとな”の仕事ですから。

大企業の人はおとなになりすぎているから、これ以上おとなになっても仕方ない。どっちがいい悪いじゃなくてガキとおとなの両方が必要です。