「解き方」だけを覚えてしまう
以前、私はA塾に通うたくさんの子供を指導してきた。最難関中合格は必須と考えて通わせている家庭が多い。
そこに落ちたら人生終わり、なにがなんでも合格させなければならない……。そう考える親たちは、4年生でA塾が始まる前の、低学年のうちから中学受験のための“プレ塾”的な存在の学習塾に通わせる。そこでは低学年にもかかわらず、毎週テストがあり、成績が張り出される。その環境に慣れるにつれ、親も点を取らせることしか考えなくなっていく。
ところが、そういう熱心な家庭で育つ子供の多くが、4年生になってA塾に通い出し、中学受験の勉強が本格的になると、じわりじわりと成績が下がってくる。成績低迷の原因は、“アタフタ学習”だ。
はじめにお伝えしておくが、私はA塾を批判したいのではない。A塾の授業はとても質が高く、洗練された問題の解き方を教えていて、理解力の高い子供にとっては非常に魅力的な授業だと感じている。
その反面、「なぜそうなるのか分からないけれど、形通りに解けば答えが出るからいいか」と解法の形だけを覚えてしまう子供が一定数存在し、それがジリジリと増えていく。そうなってしまう一つの原因は、塾から与えられる課題が子供によっては多すぎるからだ。
宿題を「こなす」ことが目的になってしまう
A塾は宿題が多い。さらに、宿題をちゃんとやってきたかのチェックが厳しく、宿題をやっていない場合はチューターの先生から家庭に連絡がいき、注意を受ける。厳しいチェックを受けることによって、「ちゃんと宿題をしなきゃ!」と意識するようになる子供もいれば、形だけやって提出する子もいる。
宿題とは本来、授業で身に付いた知識を使い、理解を深めるための自問自答の行いだ。ところが、量が多いのとチェックが厳しいがために、宿題の内容理解よりもチューターの先生に叱られないように「こなす」ことを目的としてしまう子供が少なくない。
そういう子供の答案を見ると、「問題文をよく読んでいない」「計算ミスが多い」「解答欄を埋めることに必死」など、“アタフタ”の形跡がある。答案は全部埋めているのに、テストの点は半分も取れていないのだ。私はこうした答案を見るたびに、「あ、この子も“アタフタ病”にかかっているな」と確信する。近年、A塾以外でも、この“アタフタ”が増えているのだ。