助けられたにもかかわらず、謝礼すらしない無礼

「その一方で乗組員を現場で北朝鮮側に引き渡し、事情聴取や身柄拘束を行わなかった対応は疑問である」と水産庁の対応を批判する。見出しも「北朝鮮漁船の沈没 『大和堆の守り』練り直せ」である。

産経社説はこうも指摘する。

「北朝鮮のような無法な国は抗議など何の痛痒も感じまい。乗組員全員を易々と帰すようでは毅然とした対応とはいえない」
「日本は他の海域では、外国漁船がEEZで違法操業すれば漁業主権法違反の容疑で拿捕し、船長を逮捕したこともある。なぜこの海域では摘発しないのか」

沙鴎一歩も事情聴取や身柄拘束を行うべきだったと思う。このままでは金正恩氏になめられるばかりだ。

北朝鮮側は助けられたにもかかわらず、正式な謝礼の言葉はない。無礼な国だ。

さらに産経社説は書く。

「自民党の水産関連会合では『こんな対応ではなめられる』と懸念の声があがった。中国や韓国も日本の弱腰を注視していよう。ロシアは自国のEEZで違法操業する北朝鮮漁船を摘発し、9月以降800人以上を拘束した」

「中国や韓国も日本の弱腰を注視」とはその通りである。主張すべきときにはきちんと言う。そうでなければ外交上の国益は生まれないし、これが外交の基本でもある。

「警戒監視の態勢を強めることが重要」との指摘は弱い

次に10月10日付の読売新聞の社説を読んでみよう。

冒頭で「海洋の権益を脅かす行為が、危険な衝突事故に発展した。政府は毅然と対処せねばならない」と訴え、続いてこう指摘する。

「日本の権利を害する振る舞いは看過できない。政府が北朝鮮に抗議したのは当然である」
「8月には、武装した北朝鮮の高速艇が水産庁の取締船を威嚇し、周辺海域にいた日本漁船が退避したこともあった」
「日本の漁船の安全にも影響が及びかねない。政府は警戒監視の態勢を強めることが重要だ」

「日本の権利を害する振る舞いは看過できない」という主張はいい。だが「政府は警戒監視の態勢を強めることが重要だ」との指摘はどうだろうか。産経社説の主張に比べると、弱い。格段の差がある。