過去3年の大企業の不正・不祥事で見えてくること

欧米人は、「なぜ悪いことをしてはいけないのか」と問うた場合、「法律で罰せられるから」との合理的な答えが多いが、日本人の場合は法令遵守の意識とは別に「誰かに見られているから」との感覚的な作用も働く。それが、規律正しい行動につながってきた。

たとえば、ゴミのポイ捨てをする人の少なさが挙げられる。私は京都の嵯峨野の観光地のど真ん中に住んでいるが、ゴミをポイ捨てするのは日本人ではなく、多くが外国人旅行者だ。

また、2011年3月の東日本大震災の直後、略奪などが比較的少なく、混乱期の秩序のありようは海外からも評価が高かった。

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これらは、日本人ひとりひとりに染み付いた宗教性の好影響だと、私は分析している。

改めて仏教と企業倫理との関係性を論じてみたい。日本人は近年まで仏教・神道・儒教的思想に基づく、行動規範を持っていた。

この見えざる力による行動抑制が近年、弱まってきているのかもしれない。大和総研の報告「企業の不祥事予防には何が必要か」(2019年)では、「企業の不正や不祥事にかかわる報道件数は増加傾向にあり、企業のコンプライアンスの重要性が増している。過去3年間で不正が発生している企業は、従業員や関係会社の多い大企業が多い。発生が多い不正事例のタイプは『横領』や『会計不正』である」としている。

「誰かに見られている意識」「感謝する心」が全然ない

この3年ほどでどれほどの企業不祥事があったのか。思いつく限り列挙してみた。

▼2016年
スズキ「燃費データ偽装・所得隠し」
▼2017年
タカタ「リコール隠し」(のち経営破綻)、てるみくらぶ「粉飾・詐欺」、神戸製鋼「品質検査データ改竄」、はれのひ「粉飾・詐欺」、ゼネコン4社「リニア談合」
▼2018年
スバル「データ書き換え」、スルガ銀行「不正融資」、日本大学「アメフト悪質タックル問題」、ヤマトHD「過大請求」、レオパレス21「施工不備」、日産「ゴーン・西川ショック」(~2019)
▼2019年
吉本興業「闇営業」、日本郵政グループ「不適切販売」、東レ「契約書偽造」……。

これらは多くが「過失」ではなく、「故意」に引き起こされた不祥事である。そこには、神仏をも畏れぬ「悪意」が潜んでいる。

「誰かに見られている意識」「感謝する心」「つながりの意識」など長年、仏教が育んできた「見えない価値」の再認識が、とくに経営者に強く求められているように思う。