公的な議論は遅れ、診断はアングラ化

ここで日本の現状を確認しておこう。現在日本において着床前診断を規制する法律は存在せず、日産婦などの学会が自主規制しているのみだ。さらに各学会にしても、一部の小委員会のみの検討結果を発信しているだけであり、日本で着床前診断が広く議論されたことは今までないと言ってよいだろう。

こうした、国や学会の議論を遠ざける姿勢はしばしば「技術の導入に慎重な姿勢を示している」と説明されるが、実際は患者団体など着床前診断へ反対している集団からの「生命の選別を促進しかねない」との苦言を避けたい、つまり「クサいものに蓋」をしているだけとも言える。

実際、公的に議論しないことで出生前診断のアングラ化が生じている。試しに検索エンジンで「着床前診断 産み分け」と検索してみれば、いかにも怪しいホームページが多数ヒットするはずだ。こうした闇業者に斡旋され検査を受けた結果、トラブルに巻き込まれるケースも多く報告されている。

実際、筆者の知り合いからも「着床前診断で問題ないと言われたのに、実際にはダウン症候群だった/胎児奇形が多くあった」と憤慨・落胆した様子で受診する夫婦を診て、辟易とさせられたと聞く。着床前診断は100%正しい検査ではなく、そもそも胎児奇形を正確に診断する検査ではないが、そうした説明を夫婦は全く受けていなかったのだそうだ。

個人に委ねるアメリカ、法規制するヨーロッパ

世界的にはどうだろうか。

アメリカは全ての州においてPGD、PGS、産み分けのいずれも法規制はなく、個人に選択が委ねられている。

ヨーロッパは国によるが、カトリックが主体の国は受精卵の時点で生命と見なすことから、受精卵に手を加える技術として法律で禁止されているのが一般的だ。実際にカトリックの総本山であるバチカンは現在でも着床前診断に強く反対している。一方イギリスやフランス、スペインは一部の重篤な遺伝性疾患に対象を絞るよう法規制されている。

アジアでは、タイやカンボジアでは産み分けを含め自由に検査を受けることが可能。中国はPGD・PGSのみに法規制されているが、産み分けについてのニーズが高く、着床前診断のできる国へ渡航するケースも多い。こうした世界の状況と比較すると、法規制がなく学会による自主規制が緩く実行力を持っていることが日本の特徴とよくわかる。