産婦人科医「私の人生で最も難しい決断だった」

ここで、著名な医学雑誌である「The Journal of the American Medican Association(JAMA)」に掲載された、着床前診断を実際に利用した体験を産婦人科医師がつづったエッセイを引用したい。この医師は自身に先述の乳がんになりやすいBRCA変異があると知り、両側の乳房切除を受けた。この文は自分の子供にBRCA変異を伝えたくない――そう思い着床前診断を利用しようとする際の一幕だ。

「ことはそう単純ではない。私は着床前診断が自分の子供を『どうにかしてしまう』―つまり自分たちの思わぬことが起きて妊娠がダメになってしまうのではないかとさえ思った。私は医師としての合理的な知識と理不尽な恐怖を同時に考え、躊躇した。(中略)着床前診断を受けたことは私の人生で最も難しい決断だった。(中略)しかし、人々は私の想いには関係なく『着床前診断を受けてよかった?』と尋ねてくるのだ。」

※Sackeim MG. Eradicating a Genetic Mutation. JAMA. 2017 Feb 28;317(8):809.より引用、前田訳

遠くない未来、着床前診断により胎児や受精卵全ての遺伝子が解析可能となり、金銭的にも身近になる時代が来るだろう。規制を設け、形ばかりの空虚な議論を重ねていても見識は深まらない。国や日産婦をはじめとする学会は着床前診断の適用拡大と言わず、規制を撤廃し、実の伴った議論を促進すべきではないだろうか。

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