サムスン李会長が来日した理由
韓国大手企業のトップは、わが国の輸出管理見直しに危機感を強め、迅速に対応したようだ。サムスン電子のトップ、李在鎔(イ・ジェヨン)氏は、政府との対策協議を欠席し、来日した。目的は当面の事業継続に必要な半導体材料などの確保と、わが国金融機関からの信用供与の取り付けだったとの見方が多い。また、ロッテグループ会長の辛東彬(シン・ドンビン、日本名:重光昭夫)氏も、わが国の主要金融機関との会合を優先したと報じられている。迅速にわが国との関係を維持・強化しようとする企業トップの姿勢からは、対日関係は経営安定に欠かせないという本音が感じられる。
一方、文大統領は、半導体材料などの国産化を進めると主張している。ただ、大手企業トップ自ら日本企業などとの関係維持・強化に動いたことを見ると、文氏の主張が経済界全体からの支持や信頼を得られていると考えるのは難しい。刻々と、文政権と経済界の距離感が広がってしまっているように感じられる。
実務面からも、韓国の実力には疑問符がつく。半導体の専門家によると、フッ化水素などの純度がごくわずかに違うだけで、半導体の性能は大きく左右されてしまうそうだ。また、半導体製造ラインに投入される材料の切り替えには、半年から1年程度の時間がかかる。
日韓の関係が冷え込めば冷え込むほど、韓国企業が国内に拠点を置きつつ成長を目指すことは難しくなるだろう。これは、韓国の産業基盤の毀損に直結する問題だ。
“ゾンビ企業”が増えていく懸念
理論上、経済の持続的な成長のためには、官主導で構造改革を進め、環境の変化に合わせて制度などを刷新する必要がある。そのためには、政治の安定が必要だ。国家のトップが長期の視点で多様な利害を調整し、国をまとめることが欠かせない。その環境が整えば、企業は、新しい取り組みを進めやすくなる。政治の安定は、経済の持続的な成長を支える基盤だ。
今の韓国にはそれがない。労組や市民団体の支持を取りつけたい文氏が、経済界の要請に応じることは難しい。加えて、左派政権下の韓国では労働争議が激しさを増している。企業業績が悪化しているにもかかわらず、労組は賃上げを求めている。通常では考えられない事態が韓国経済をむしばんでいる。
その上、韓国の企業は米中の貿易摩擦による世界的なサプライチェーンの寸断に対応しなければならない。また、韓国にとって最大の輸出先である中国経済は成長の限界を迎えている。この変化に対応しようと、コストの削減とより自由度の高い経営環境の実現を目指し、海外進出を積極化する韓国企業が増えているようだ。韓国撤退を模索する海外企業もある。大手企業を中心に海外進出が進む一方、韓国国内では効率性が低下し、収益を生み出すことの難しい“ゾンビ企業”が増えることが懸念される。