直ちに子が責任を負うわけではない
「危険だから運転免許を返納して」「いや、頭ははっきりしている」。この夏、親とこんな会話を交わした人は多いだろう。言葉と裏腹に、親の認知機能や身体機能は低下していることがしばしば。親の安全が気になることはもちろんだが、場合によっては子が監督責任を問われかねない。
民法第713条は、他人に損害を加えた者が精神上の障害により責任能力を欠いていた場合、その賠償の責任を負わないことを定めている。精神上の障害には認知症も含まれる。たとえば重度の認知症患者が責任弁識能力を欠く状態で事故を起こすと、損害賠償責任を負わないことになる。
ただ、その場合、賠償責任は責任無能力者の監督義務者が負う(民法第714条)。わかりやすいのは成年後見人だが、親族も監督義務者になりうる。つまり認知症の親が人に怪我をさせたら、子が監督義務者としてその責任を負う可能性もある。
子の監督義務は総合考慮で判断される。萩生田彩弁護士は次のように解説する。
「親が責任無能力者かどうかは、認知症の程度しだい。親が責任無能力者でも、実際に監督できる能力の有無や、親との同居の有無も含めて、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情があったかどうか判断されます」