「食べねばならぬ」の幼児教育に支配されていた

一般的に、給食と言えば決まった献立を、決まった量で提供するでしょう。そうすると栄養バランスも取れますから、理にかなっています。

それなのに、うちはなぜバイキング形式にしたか。

まず、食事は強制されるべきことではなく、楽しい時間であることが基本だからです。

そしてやっぱり、子どもには自分のことを自分で決める力があると信じているから。

大人だって、「今日はパン一つでいいや」と思う日も、「ああお腹が空いた、モリモリ食べたい」と思う日もあるでしょう。好き嫌いだって、多少はあるでしょう。

子どもも同じです。毎日、みんなと同じメニューを同じ量だけ食べさせられる。それがあたりまえというのは、ちょっとおかしいなと思うのです。

……と、えらそうなことを言っていますが、私も以前は昔ながらの保育をしていたおっかない保育士でした。

ちんたら食べる子どもを急かして、みんなが昼寝に入っても食べさせて、最終的には残りを口の中に突っ込んで布団に寝かせる。いま思えば窒息しかねないし、よくそんなことをしていたな、とおそろしく思います。

「食べねばならぬ」の幼児教育に支配されていたんですね。

一生懸命で、その子のためを思ってのことでしたが、「食べる」が楽しい体験にならなかったのは明らかです。保育園そのものに、イヤな記憶を持ってしまったかもしれない。申し訳ないことをしました。

「身体や心の声」に気づける子を育てる

そんな保育に対して「おかしい」と声を挙げたのは、幼児教育のヨの字も知らない、完全なるシロウトだった次男、つまり園長です。

「そりゃ、無理やり食べさせたら栄養は偏らないかもしれない。けど、食事にはもっと大切なものがあるだろう」

はじめは「そんなこと言ったって、栄養が……」とか「保育の常識では……」と思いましたよ。できっこないって。

でも、バイキングをはじめてみて、子どもたちの表情を見れば、どちらが幸せかは一目瞭然でした。

お母さん、お父さん自身も、時間だからとなんとなくごはんを食べていませんか。

ほんとうにお腹が空いているか、食べる必要があるのか、なにが食べたいか。ぜひ、あらためて意識してみてください。

「最近、自分の内側の声に耳を傾けていなかったわ」と気づくかもしれません。

もちろん、食欲だけではありません。今日の体調は。心の様子は。調子はいいか。無理をしていないか——。

自分自身を見つめる習慣がついていないと、身体や心の声に気づくこともできません。子どもには、早いうちからその習慣を身につけてほしいと思っています。