コーヒーを多く売るだけでは足りない

原材料費(フードコスト)を抑えるためには、原価率の低い品を主力商品にしたい。普通はコーヒーだ。コーヒーオークションで高い豆を買わない限り、良質な豆を一括購入すれば、あまり原価率は高くならない。例えば、少し高く見積もって1杯分40円の原価の豆を、400円で提供すれば原価率は10%となる(これ以外に電気代やガス代はかかる)。

フードやスイーツを売り切る工夫も必要だ。東京都内の個人店(男性店主は30代)の場合、フードメニューは手づくりサンドイッチが中心。味には定評があり売り切れることが多いが、売れ残りそうな時もある。その場合は、SNSで「いつもは売り切れるサンドイッチが、今日は○個残っています」と告知する。すると、SNS上でつながっている常連客が買いに来て、売り切ることも多いそうだ。

カフェや喫茶店に限らないが、飲食店で経営努力をしない店は業績も厳しくなる。

廃業に追い込まれる“理想と採算”の見極め

前述した「3年持つ店は半数」の定説を基に、開業して数年で廃業に追い込まれる理由を2つ挙げてみよう。以前も紹介したことがあるが、取材事例を変えながら考えたい。

(1)「自分の城」の理想形にこだわり過ぎる
(2)「収支計画」や「採算管理」が甘い

(1)は「ロマン」、(2)は「ソロバン」の話だ。具体的に考えてみよう。

例えば全生産量の3%ともいわれる「スペシャルティコーヒー」の品ぞろえを充実し、徹底追求しようと、味の違いが分かる人をターゲットにした店を開業したとする。

メニューもコーヒー中心にし、フードもスイーツも置かない店にした場合、“コーヒー通”は集まるかもしれないが、家族連れなど客層の幅は広がらない。売上高=「客単価×客数」なので、よほど希少価値のあるコーヒーを高く設定し、多く売らないと売上高も上がらない。

撮影=高井 尚之
「喫茶 マドンナー」のミックスジュース(右)とバナナジュース

実は人気店には、コーヒー豆が売上高を支える店も多い。「1杯600円」のスペシャルティコーヒーを飲み、その味が気に入った客が「200グラム1500円の豆」を買えば、客単価は2100円になる。机上の空論に思うかもしれないが、筆者の取材先の実例だ。

また、夫婦で店を始め、夫や妻が「私の得意な料理を幅広く提供したい」とロマンを掲げたとしよう。この場合、メニューの幅を広げすぎると、仕込みも調理も大変になる。よく「1日限定20食」と掲げた個人店があるが、現実的な数字なのだ。取材では「週に一度の休日も、翌日以降の仕込みに追われて休めなかった」という話も聞いてきた。

女性の店主に多いが、五穀米のような身体にやさしいメニューを提供する店もある。味は好評な半面、「量が少なくおなかが満たされない」という声も聞く。「がっつり食べる女性」も多い時代だ。そんな消費者心理も踏まえながら、ロマンとソロバンの両にらみを続けなければならない。