サムスンが覇権を握った理由
一方で、日本企業が苦闘する中、薄型テレビ戦争で覇権を握ったのが韓国のサムスンでした。サムスンは当初、シャープのように技術的に先行していたわけではなく、薄型テレビへの参入時は生産能力の増強による低価格戦略を基本としていました。では、何がその後の明暗を分けたのでしょうか。
液晶技術の進歩によって、業界全体が価格競争に巻き込まれ、先進国の需要がほぼ飽和しつつあった、という市場環境はサムスンにとっても共通でした。しかし、日本企業が低価格戦略(パナソニック)か技術による差別化戦略(シャープ)のいずれかに固執し、機動的な戦略転換に失敗したのに対し、サムスンはデザインやマーケティングによる差別化を含めた、柔軟な競争戦略を行いました。欧州市場で大ヒットしたワイングラス形シルエットの製品や、省エネをうたうLEDバックライト(技術的には比較的単純で、コストも大してかかりません)の製品などを開発し、市場で勝利したのです。
日本企業が無謀な設備拡大に走ったのに対して、ソニーと合弁でパネル生産会社を設立し、新興国市場向けの中型画面製品の需要拡大に合わせ、あえて最先端でない(ただし生産効率が高くて設備投資も安くすむ)生産設備の拡充を行うなど、パネル戦略の転換についても柔軟でした。日本とせいぜいアメリカ市場ばかりを見ていた日本企業に対し、サムスンが中国や南アジア、ブラジルなどを含む、よりグローバルな市場をとらえて戦略を立案していたことも一因でしょう。
この差が何から生まれるかといえば、やはりマネジメント層の戦略立案能力が、日本企業に比べてきわめて高かったからだと言わざるをえません。技術畑出身の経営者が多く、戦略の話をしたら上司に叱られたという話を日本メーカーの方から聞いたことがあります。一方、サムスンにはMBA取得者らによる「参謀本部」のようなものがあり、戦略立案とその遂行能力は日本企業の比ではありません。サムスンが日本企業との合弁や日本人技術者のヘッドハンティングを通じて、日本メーカーの技術を相当に吸収したのは事実です。しかし、薄型テレビ市場でシェアトップに押し上げたのは、最終的には経営戦略の優位性にあったと私は考えます。