日本人は英語の基礎がある

【三宅】それは学校で基礎を身につけたからですよね。

【鳥飼】はい。基礎があるからこそ、大人になって必要に迫られたときにすぐに使えるようになるのです。だから日本人はもっと自信をもったほうがいいと思います。

【三宅】鳥飼先生も高校時代に10カ月アメリカに留学されていますね。それもやはり留学前に相当勉強されたのですか?

【鳥飼】いろいろな学習法を試しました。私が応募したAFS(American Field Service)という留学プログラムに選ばれるためには、学校長と英語教員の推薦状が必要で、さらに教育委員会による筆記試験と面接もあったので、英語の勉強にはかなりの時間を割きました。私の英語の基礎はそのときに身についたので、選考基準が厳しかったのは結果的に良かったと思います。最近の若い人に多い「留学をすれば英語が身につく」という考えは正直いって甘い。それではうろうろしている間に終わってしまいます。

【三宅】おっしゃる通りですね。

語彙を増やすには良質な英文を読むのがいい

撮影=原 貴彦
イーオン社長の三宅義和氏(左)と立教大学名誉教授の鳥飼玖美子氏(右)

【三宅】ではせっかくなので英語の学習方法なり、心構えをいろいろお聞きしたいと思いますが、まず語彙についてはどのようにお考えですか? 私は英語の基礎体力のようなものだと考えているのですが。

【鳥飼】たしかに先立つものは単語ですよね。ではどれくらいの量が必要かというと、いま中高で習う語彙は3000語で、2020年以降、小学校で英語教科がはじまると5000語程度に増えます。しかし、語彙研究の第一人者、ポール・ネーション教授によれば、仕事で使うなら8000語から1万語は最低必要だと言います。それでも教養あるネイティブスピーカーの語彙力にはかないませんが、8000語以下だと仕事では使えない。

8000語という語彙数は学校では到底教えることはできません。つまり、本人がやる気を出して、自分で工夫して覚えなければならない。学習者として自律して自分で学習方法を探すしかない。ではどうしたら語彙が増えるかというと、まず丸暗記は駄目です。苦しいばかりでいやになります。

【三宅】しかもすぐに忘れてしまいますからね。

【鳥飼】そうなんです。私はやはり読むことだと思います。いい英文をたくさん読む。声に出して読む。そしてそれを使ってみることです。語彙にも読んだり聞いたりしてわかる「受容語彙」と、書いたり話したりに使える「産出語彙」がありますし、一つの単語だけで意味を持つ「内容語」と、冠詞や接続詞など文法的働きを持つ「機能語」があります。単語の組み合わせで新しい意味が生まれたりもします。一筋縄ではいかないので、「使える語彙」を増やしたいなら、読むことで文脈の中で単語や熟語がどう使われて意味を作っているかを、広く深く学ぶしかないわけです。