文法は日本人向けに整理された方法を学ぶべき
【三宅】文法はどうしたらよろしいでしょう。
【鳥飼】文法はスポーツ試合のルールのようなものなので、知らないと試合に出られません。ただ、学び方が難しくて、特に英語はほかの言語と違って例外が多い。だからどんな学び方をするかがとても重要です。
たとえば、いまどきの中高大学生にはなじみのない「5文型」。あれは日本ならではの学校文法と言いますか、日本人の学習者が理解しやすいように英文法を整理したものです。だから「5文型」を教えること自体、私は悪くないと思っています。
【三宅】きれいに整理された状態で学ばないと頭に入りませんからね。
【鳥飼】そういうことです。骨組みがわからなければどうしようもないですから。たとえば海外のESL(English as a Second Language:第二言語としての英語)を視察してみると、ネイティブの先生は助動詞の説明ができなかったりします。助動詞には、can,could,will,wouldなどいろいろあります、と例文を出すだけで、助動詞の機能に丁寧表現があるという大事な説明が一切ない。だから文法は、日本人が日本人向けに整理して教えることが必要だと思います。
しかし、いまの学校教育では文法の説明は肩身が狭い感じです。小学校の英語では文法を教えないことになっていて、中学高校でも文法的説明はコミュニケーションに役立つという条件下において教えてもよい。そんな扱いです。
【三宅】変な話ですね。
【鳥飼】順序が違うのです。「英語でコミュニケーションをしたいのであれば、文法の基礎が必要である」という認識の共有がいまの学校教育で必要なことです。その上で、もっとも効率的な文法の指導方法はなにかという方法論についての議論が活発になればいいと思っています。
きれいな発音よりも文法を磨いたほうがいい
【三宅】発音についてですが、イーオンの受講生をみていると「ネイティブのような英語を話せないと恥ずかしい」という意識が減っていると感じていまして、これは非常によい傾向だと思っています。
【鳥飼】コンプレックスのかたまりになって、英語を話すことを躊躇する人がたくさんいますからね。完璧主義の呪縛から解放されることはいいことだと思います。私もそのことを『国際共通語としての英語』という本で書いたのですが、少しまずかったかなと思ったのは……。
【三宅】極端に捉える方がいらっしゃる(笑)。
【鳥飼】はい(笑)。「はちゃめちゃ英語でいいんですね! 安心しました」という反応が少なからずありました。はちゃめちゃな英語で十分と言いたかったわけではなく、きちんとした英語を学ぶ努力は続けつつも、実際に使うときにはそんなことを忘れて自信をもって話してほしい。その切り替えが大事だということを言いたかったのです。
【三宅】まったく同感です。では発音を上達するうえでの極意のようなものはありますか?
【鳥飼】日本語の音との違いを見極めることですが、それには音声学・音韻学の知識が必要です。中高の英語の先生で発音が苦手という人が少なくありません。その原因は教職課程で英語音声学が必修になっていないからです。ネイティブスピーカーは日本人の発音を聞いて「違う」ということは言えますが、なぜ自分と同じ発音ができないかという説明ができません。でも音声学の専門家が教えるとすぐできるようになります。
私はそれをずっと言い続けてきて、いまは一応、英語教職課程のコアカリキュラムに形としては入ったのですが、1、2回の授業が少しあるだけ。英語の音の特徴やリズムなどを学んでおくと特に中学校の先生が自信をもって指導できると思うのです。
【三宅】なるほど。では発音と文法のどちらが大事でしょうか?
【鳥飼】文法ですね。文法さえきちんとしていれば、発音が日本人なまりでもバカにはされません。「この人は外国人だな」ということがわかって、むしろゆっくり話してくれたりします。でも文法がめちゃくちゃだと、いくら発音がよくても「この人は教養がない」と思われて、ビジネスの場では見下されます。
【三宅】みなさんも文法をしっかりやりましょう(笑)。