短期的に集中力を高めるホルモンとは

ストレスのレベルを把握し、管理するための第一歩は、ストレス要因に対する人間の生理的反応を理解することだと、ベンソンは言う。ストレスは身体の闘争・逃走反応を活性化する。心拍数や血圧が上昇し、数種類のホルモンが血液中に放出されるのだ。それらのホルモンのうち最も重要なのが、エピネフリン(アドレナリンとも呼ばれる)とコルチゾールである。

これらのホルモンは短期的には人間の集中力や記憶力や創造力を高めてくれる。100年前にハーバード大学の研究者、ロバート・M・ヤークスとジョン・D・ドッドソンがストレスとパフォーマンスの関係を調べ、ストレスが上昇するにつれて効率とパフォーマンスも上昇することを発見した。だが、ストレスが一定のレベルを越えると、その恩恵は消えてパフォーマンスが低下することにも気づいた。思考の柔軟性、集中力、気分のすべてが損なわれるのである。

パフォーマンスとストレスのこの関係は、ヤークス-ドッドソン曲線と呼ばれている。

善玉が悪玉に変わる境界線となる曲線が示すもの

ストレスがどのように作用するかは人によって異なる。ある量のストレスはAさんにとっては活力を与えてくれるものでも、Bさんにとってはエネルギーを奪うものかもしれない。過度のストレス症状は身体に表れることもあれば、認知面に表れることも、感情面に表れることもあり、それらが交ざり合うこともあり、人それぞれだ。

ヤークス-ドッドソン曲線の下降線にさしかかろうとしているとき自分がどのような反応を示すかを認識するためには、次の作業を行うとよい。

自分の集中力に注意する。生産的な仕事を集中して行ったあと、スポーツの試合の最新の得点状況をオンラインでチェックしたいとか、自動販売機に行って何か買いたいという衝動に突然駆られてはいないか。集中力とエネルギーを維持するのが難しくなってはいないか。