年収1000万円は果たして「高い」のか
しかし、「入社1年目から年収1000万円」はそこまで騒がれるほど高額なのだろうか。例えば、すでにNECは新入社員でも1000万円以上の年収が得られるよう人事制度を改定すると発表している。IT業界だけでなく、金融業界でも1000万円は特別な数字ではない。くら寿司が注目されたのは、「飲食業界で1000万円」だからだろう。
厳しいことを言えば、この程度の収入で耳目を集めてしまうほど、飲食は生産性の低い業界だと自ら示してしまったともいえる。
飲食業界は年々人手不足が深刻化し、新入社員の採用も困難になってきている。厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査」によると、「宿泊業,飲食サービス業」は男性が275万1000円、女性が202万1000円で男女ともに低い賃金水準となっている。
最も賃金水準の高い「金融業,保険業」に従事する男性の470万4000円と比較すると、年収にしておよそ200万円の開きがある。従来と同じやり方で採用を続けていても、学生および社会全般に響かないと考えたのだろう。くら寿司としては、この幹部候補生採用で話題性を持たせることで、リクルーティング全体を優位に進めようともくろんでいるのではないか。
海外事業の強化中に投じた「カンフル剤」
ちなみに飲食業界で最も給料が高いといわれているのが、サイゼリヤと日本マクドナルドホールディングスだ。有価証券報告書によると、直近の平均年収はサイゼリヤが615万円、日本マクドナルドホールディングスが603万円だ。一方、くら寿司の平均年収は450万円。こうした状況を鑑みれば、確かに「新卒社員で1000万円」は飲食業界では破格の条件ではあるのだろう。
安直なやり方と言えなくもないが、カンフル剤として一定の効果は見られるかもしれない。本来、飲食業界などには見向きもしなかった優秀な学生が、1年目から1000万円もらえるのなら、最初の社会経験として数年間、飲食業界に身を置いてもいいと考える可能性はある。
また今回の採用では、「グローバルで経営を担う人材」というキーワードが盛り込まれている。最近の優秀な学生は「海外」という言葉にひかれる傾向がある。「1000万円」とダブルで学生の心に響かせ、能力が高く、野心のある若者を採用しようという戦略ではないか。
海外進出は、くら寿司の悲願でもある。既に米国で24店舗、台湾に19店舗出してはいるが、本格化するには経営人材が足りていない。回転寿司のリーディングカンパニーであるスシローとくら寿司の間にはまだまだ大きな差があるが、スシローも海外展開はまだ不十分だ。そう考えると、海外展開はくら寿司がスシローに追いすがるために非常に大きな意味合いを持っているわけだ。