「権力者に身を任せる」ジャーナリズムの姿

権力者へすすんで身を任せる、と表現しても決して過言ではない日本のアクセス・ジャーナリズムでいまでも印象に残っているのは、準大手ゼネコンの西松建設をめぐる汚職事件が政界に波及した偽装献金事件だ。

当時の野党第一党、民主党の小沢一郎代表の会計責任者兼公設第一秘書が政治資金規正法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕され、小沢代表の資金管理団体、陸山会事務所の家宅捜索が行われた2009年3月以降、小沢代表をおとしめるかのような記事が連日のように紙面に躍った。

東京地検からリークされた情報であることは明白だった。

おりしも自民党の麻生政権への支持率が著しく低迷していた。政権交代が起こりうるのでは、というタイミングで野党第一党の代表をめぐるネガティブな情報があふれていたのはなぜなのか。与党自民党の二階俊博経済産業大臣、森喜朗元首相も献金を受け取っていたのに、メディアからはほぼ何も問われていなかった。

背後で何らかのストーリーが描かれているのでは、と記者が疑問の目を向けてみれば、窮地に陥りかけている与党が描いたシナリオが存在するのでは、などと自分なりの仮説を立てながら、ファクトを洗い直す独自の取材を行うこともできたはずだ。

しかし、当時の政治部記者たちは取材を行う際に必要不可欠となる緊張感をも欠いていた。権力側に上手くコントロールされた結果、政権の道具と化して都合のいい記事を書かされてしまった。アクセス・ジャーナリズムの怖さがこの過程に凝縮されている。

東日本大震災でも新聞は踊らされた

東日本大震災および東京電力福島第一原発事故の後にも、同じ図式が残念ながら繰り返されている。当時ニューヨーク・タイムズの東京支局長だった私は、震災発生翌日の2011年3月12日から車で被災地へ向かい、各地を回って被害の様子をレポートした。

望月衣塑子、前川喜平、マーティン・ファクラー『同調圧力』(角川新書)

政府は震災発生直後から測定が開始されていた、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による放射性物質の拡散状況予測に関するデータの公表を拒み続けた。そして、4日後の3月15日になって読売新聞が地震でシステムに不具合が生じ、拡散予測が不可能になっていると大々的に報じた。

所管する文部科学省のリークを受けたと思われるこの特ダネは、記者自身が深く調べたものではなく、官僚の言い訳を鵜呑みにして書かれたものだ。そのため、隠されている真実を掘り出すことができなかった。
 
 これがアクセスジャーナリズムの最大の点である。記者は気づかぬ間に権力者に取り込まれ、権力者が作ったストーリーをそのまま繰り返す。真実を探そうとしなくなるのだ。

政府がようやくデータの一部分を公表したのは同23日。多大な数の国民が被曝の危険にさらされたことへの怒りは、在日米軍や在日アメリカ大使館へは震災発生直後からデータが提供されていた事実の発覚と相まって、増幅されたことはいうまでもない。

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