新興ウェブメディアがピュリッツァー賞を受賞
その代表格がニューヨーク州マンハッタンを拠点として、2007年に設立された非営利団体(NPO)の「プロパブリカ」だ。
サンドラー財団の設立提案を受けて、ウォール・ストリート・ジャーナルの編集局長から編集主幹に転じたポール・スタイガーが中心となって組織運営にあたってきたプロパブリカには、調査報道だけに携わる30人から40人の常勤ジャーナリストがおり、国民の知る権利に寄与する取材活動を日々展開している。
約1000万ドル(約10億円)にのぼる潤沢な年間活動資金のほとんどを、サンドラー財団をはじめとする団体や個人からの寄付によっている。ゆえに調査報道のリスクとなってきた時間や費用を気にすることなく、広告出稿企業からの圧力とも、アクセス・ジャーナリズムへの過度な依存とも無縁の独立した取材活動が保証されることになった。
数々のアドバンテージは、オンライン・メディアとして初めて受賞した2010年のピュリッツァー賞となって結実している。その後も2011年、2016年とピュリッツァー賞を受賞。もっとも成功した媒体としてのステータスを確立し、世界中のジャーナリズムが目指すモデルと見られている。
実は圧力が強かったオバマ大統領
実はトランプ政権以前にも、アメリカのメディアは危機に直面している。2009年1月に就任したバラク・オバマ大統領のときだ。清廉潔白で穏健的なイメージが強いので驚かれるかもしれないが、歴代でもっとも強硬に内部告発者を摘発した。
アメリカには第一次世界大戦中の1917年に施行された、スパイ活動法(エスピオナージ・アクト)がある。法律が成立してから約90年間で、この法律がメディアへの内部告発者摘発のために適用されたのはわずか3回だった。これがオバマ政権下の8年間で、一転して8回を数えている。トランプ政権下においても、実際に法的手段で弾圧に打って出たケースはまだないので、その数が際立っているのがわかると思う。
背景には在任中に立て続けに発生した機密漏洩事件を契機として、オバマ政権が過敏なまでに神経をとがらせるに至った状況があげられる。
2010年に陸軍の諜報員が、国防総省内の機密情報をウィキリークスへリーク。2013年にはNSA(アメリカ国家安全保障局)およびCIA(中央情報局)の元職員、エドワード・スノーデンがNSAによる個人情報収集の手口を、ワシントン・ポストを含めた複数のメディアへリークした。
悪質なスパイ活動を摘発するための法律が、自分たちにとって都合の悪い情報を隠蔽するための悪法へと性質を豹変させてしまった。
さらに、複数のジャーナリストの電話やEメールを監視していたことも明らかになっている。たとえば、ニューヨーク・タイムズ紙の記者、Jim Risenさんの件は有名だ。Risenさんの電話やEメールが政府に調べられた結果、彼の取材を受けた当時CIAのJeffrey Sterlingさんが逮捕され、裁判で42カ月の懲役となった(※)。
※詳しくはマーティン・ファクラー『安倍政権にひれ伏す日本のメディア』(双葉社)を参照