東日本大震災は日本が抱えていた「爆弾」をより深刻な形でわれわれの前に叩きつけた。混迷を極める日本の近未来を総力予測する!

「3月11日の大震災で被害が大きかったのは、自動車関連産業ですが、4月7日の余震では、半導体産業への影響が大きかった。だいぶ復旧が進み、さあこれから再稼働しようというときに、またストップがかかってしまった」

こう語るのは、東北の地域経済に詳しい東北大学大学院の福嶋路准教授だ。福嶋准教授は続ける。「内陸部では地震の被害は小さいのですが、計画停電の影響から、生産計画がめちゃめちゃになってしまっています」。

東日本大震災は地震、津波、原発事故という前代未聞の複合災害となった。東北経済は、農業、水産業、電子部品、自動車部品が基盤になっているが、そのいずれもが複合災害で大打撃を受けた。震災から1カ月以上たった今も(雑誌掲載当時)、大規模な余震、終息の見えない原発問題、そして電力不足が東北経済の復興に重くのしかかっている。

「頑張ろう」という精神論だけでは、復興への歩みは息切れしてしまう。ここは冷静になって、わが国の行方を考えてみたい。まず、これから1年はどうなるのか。GDP(国内総生産)ベースで考えると、今年の夏ごろまでマイナス成長になり、その後、復興需要が本格化して、GDPはプラスに転じるというのが、ほぼすべてのエコノミストの一致した見方である。4月11日に開かれた日本銀行の支店長会議でも、東北と関東甲信越を中心に、1月と比べて景気見通しは下方修正された。

震災による被害は、大きく2つに分けることができる。一つが、道路、鉄道、港湾、住宅、工場・生産設備など「ストック」が、破壊されてしまったことによる損害だ。政府が16兆~25兆円と試算している被害額がこれに当たる。もう一つが、ある特定期間の経済活動である「フロー」への影響だ。フローの代表的指標が、GDPである。

東北地方は半導体産業の集積地
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東北地方は半導体産業の集積地

東日本大震災の特徴は、福島第一原発事故や海岸沿いの火力発電所が被災したことで、電力が供給不足に陥っていること、東北地方が電子部品や自動車部品の主要な生産拠点となっていたために、サプライチェーン(供給体制)が分断されて、自動車や電子機器などの生産を縮小せざるをえないということだ。

とくに「電力はすべての産業に関係があるだけに、その影響は大きい」(第一生命経済研究所経済調査部・永濱利廣主席エコノミスト)。永濱氏の試算によれば、東京電力が7月末までに最大電力供給を4800万kW/hまで回復させると仮定しても、今年度のGDPを0.71%、金額で約3.3兆円下げるという。

さらに、サプライチェーン分断の影響や、原発事故による風評被害、さまざまな自粛の影響を考えると、震災全体ではGDPを少なくとも約8兆円、率にして約1.6%押し下げるのではないかと指摘する。

政府の2011年度のGDPの見通しは震災前で1.5%。震災の影響で今年度はマイナス成長に陥ることもありうる。

ただし「供給ショック」から成長率が落ち込むのも、電力の使用が大きく制約される夏ごろまで。電子部品・自動車部品の生産も回復し、電力の供給能力も高まってくる見通しだ。さらに秋以降は破壊されたストックの再建=大規模な公共事業が本格的に実施される。この復興需要が、GDPの成長率を高める。

供給ショックから復興需要へ。この流れを見込んで、ほとんどの経済研究所が、震災前に比べて、今年度の成長率を下方修正し、反対に12年度、13年度の成長率を上乗せしている。

※すべて雑誌掲載当時