東日本大震災は日本が抱えていた「爆弾」をより深刻な形でわれわれの前に叩きつけた。混迷を極める日本の近未来を総力予測する!
一人当たりGDPを上げるには
大震災は日本経済が抱えていた課題を、より深刻な形でわれわれの目前に暴きだしている。だが、この難局を乗り越えることができれば、日本はフロントランナーとして、世界をリードすることができるかもしれない。なぜなら、いま日本が直面している課題は、いずれ世界各国が直面する課題でもあるからだ。
一つがエネルギー問題である。新興国の成長で、長期的には資源・エネルギー価格は上昇を続けるだろう。石油やLNGなど化石燃料は、いずれ枯渇の問題も現実味を帯びてくる。加えて、二酸化炭素に代表される温室効果ガスを削減しなくてはならない。その切り札の一つが、原子力発電だったが、この見直しは必至である。となれば、代わりは水力、太陽光、風力、バイオマスといった再生可能エネルギーである。こうした再生可能エネルギーは、例えば太陽電池は電気への変換効率が低い、あるいは発電の安定性に欠ける、コストが高いといった欠点がある。逆にいえば、まだ技術革新の余地や、大量生産でコストを削減する余地も大きいため、新産業として発展する可能性を秘めている。
もう一つが、持続可能な高齢社会の実現である。大震災に一筋の光明があったとすれば、それは日本社会には、思いやり、助け合いの心が、まだ生き続けているということだった。そうした「共助」の精神を生かして、互いが痛みを分かち合いながら、各世代が折り合いをつけ、安定的な社会保障制度を構築し、財政再建に道筋をつけることである。
これによって、個人は老後の設計図を描きやすくなり、社会保障の財政基盤がしっかりすれば、福祉、介護、医療といったサービス業の成長も見込まれる。
もちろん、生産年齢人口の減少はその分だけ、実質GDPを押し下げる。新産業が台頭しても、人口減によるマイナス成長を相殺して、せいぜいゼロ成長を維持する程度かもしれない。しかし、人口が減っていくのだから、一人あたりGDPは上昇する世界が展望できる。
こうしたベストシナリオを実現するには、政治の構想力、トップのリーダーシップと説得力、困難を認識しこれを乗り越えようとする国民の決意が求められる。人類は天災の襲来を止めることはできない。しかし、われわれに意志と覚悟があれば、乗り越えることができる。
※すべて雑誌掲載当時